平成12年度 森林総合研究所 研究成果発表会

虫とウッドチップを使って牛糞を堆肥にする

 

多摩森林科学園 森林生物研究室長  新島 溪子

  

1. はじめに 

 家畜排泄物は悪臭や水質汚濁などの原因となり,畜産経営の大規模化に伴って処理しきれなくなりつつある。これを堆肥化するには水分調節のための副資材を必要とするが,従来使われてきたオガクズや稲わら等が品不足となったことも事態を悪化させる一因となっている。一方,緑化樹の剪定枝葉や間伐材等の木材は分解しにくいことから,利用されずに廃棄されることが多い。そこで,木材を副資材として家畜排泄物の水分を調節し,腐植食性土壌動物を導入して木材の分解を促進することにより,安価で良質な堆肥製造技術を開発することを目的として研究を行った。

 

2. 家畜排泄物の堆肥化に役立つ土壌動物 

 家畜排泄物や木質系の廃材を食べてこれを分解する土壌動物を検出するため,畜舎付近の林内にウッドチップと牛糞を混合したものを放置し,そこに集まる土壌動物を調査した。その結果,シマミミズ,ヤケヤスデ,ワラジムシ,オカダンゴムシ,甲虫幼虫等が検出された。

 これらの虫を大量に増殖させるために,牛糞とウッドチップ混合物を餌とし,チップの種類と混合比を変えて虫を飼育した。その結果,甲虫幼虫は排泄直後の牛糞中でも生存し,他の4種は2週間以上放置した牛糞で飼育できた。甲虫幼虫とシマミミズは広葉樹チップを好む傾向が見られたが,4か月以上経過したチップでは樹種による違いが見られなくなった。

 虫が食べることによって肥料成分がどのように変わるかを明らかにするために,餌と虫フンと食べ残しの成分について,炭素(C)と窒素(N)を全炭素窒素分析計(CNコーダ),リン(P)を比色法,カリウム(K),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg)を原子吸光法で測定した。甲虫幼虫を飼育した餌,虫フン及び食べ残しの化学成分を比較すると,虫フンの方が餌よりN,K,Ca,Mgが多くてC/N値が低下し,食べ残しはその逆の傾向が見られた(表1)。

表1. 甲虫幼虫の摂食に伴うチップ混合牛糞の化学性の変化 

 

3. 牛糞,ウッドチップ混合物の堆肥化と土壌動物導入効果 

 含水率(生重量ベース)約45%の生木チップを天日乾燥して約5%に落とした後に,含水率(生重量ベース)約80%の牛糞と容積比で1:1の割合で混合すれば,含水率は65〜70%になる。これを10日に1回切り返して発熱発酵が終了するまでアンモニア臭と温度,含水率の変化を測定した。約1か月後に混合物を2分して一方に土壌動物を培地(牛糞,チップ,落葉堆肥)ごと導入し,混合物の体積の変化と,虫の侵入と定着状態を経時的に調査した。牛糞混合物のアンモニア臭は10日後に2.5ppmに,20日後に0.5ppm以下に減少し,ウッドチップにすぐれた消臭効果があることが判明した。牛糞,チップ混合物の温度上昇は,伐採後3か月以上放置されたものは60℃に達したが,伐採直後のチップは60℃に達しなかった。牛糞,ウッドチップ混合物にカブトムシ幼虫を導入すると,シマミミズも増殖し(表2),堆肥体積の減少速度が促進された(図1)。

表2. 牛糞+ウッドチップ堆肥化試験9か月目の土壌動物

図1. 牛糞+スギチップ(△)と牛糞+ナラチップ(○)及び牛糞+ナラチップ,カブトムシ幼虫導入区(●)の体積減少,切り返し時期(↓)及び虫の侵入と導入経過

 上記各試料の肥料効果を明らかにするため,試料と下層土を1:1の比率で混合し,素焼鉢に入れてコマツナの種子40粒を播種し,20日後に成長量を測定した。各種資料の成分はCNコーダ及び元素分析装置(ICP)で分析した。また,熟成中の堆肥に侵入した樹木根の量を測定した。その結果,牛糞,ウッドチップ混合物は混合後2か月目から肥料効果を示したが,ヤスデ飼育土はさらにすぐれた肥料効果を示し,牛糞を混合しない場合は3か月経過しても幼植物の発育障害が見られた(表3a,b)。牛糞+イイギリチップを混合後2か月目では肥料効果を示さなかったが,虫を導入したものではコマツナが対照区の2.5倍に成長した(表3c)。堆肥枠周囲のサクラは木枠内の堆肥に最長113cm,生重量30〜660gの根を延ばしたことから,樹木の発根促進にも役立つことが明らかになった。

表3. コマツナの生育と試料の化学成分 

 

 

4. 土壌動物を導入した家畜排泄物,ウッドチップ混合堆肥製造手順とその問題点 

 以上の結果をふまえ,図2のような土壌動物とウッドチップを用いた牛糞堆肥化手順を作成した。木材は家畜排泄物堆肥化のための副資材として有効であることが判明したので,今後,緑化樹の剪定枝葉,間伐材等,焼却処分または林内に放置されることの多いこれらの資源を有効利用する可能性が得られた。また,土壌動物を導入することにより,より肥料効果の高い良質な堆肥の製造が可能となった。ただし,この実験は小規模に手作業で堆肥を製造したために良好な結果を得られたものである。虫の大量飼育に時間がかかること,機械を導入した場合,土壌動物が傷つく恐れがあることなどの理由から,大規模に実用化するにはさらに検討を必要とする。

図2. 土壌動物とウッドチップを用いた牛糞堆肥化手順

 

平成12年度 森林総合研究所 研究成果発表会


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