平成13年度 森林総合研究所 研究成果発表会
新たな利用可能資源としてのヤナギ
北海道支所 チーム長 田内 裕之
1.はじめに
温帯から亜寒帯域に分布するヤナギ類は,初期成長が旺盛で挿し木栽培ができ,その上萌芽再生力が強いという特性から,再生可能で持続的な収穫ができるバイオマス資源として有望視されています。ヨーロッパでは,すでにヤナギ類の農地栽培が行われており,資源確保の目的だけでなく,環境・エネルギー政策の一環としてその栽培が推奨されています。
北海道には,14種のヤナギ属樹木が自生しますが,河畔域に広域に生育するエゾノキヌヤナギ,ナガバヤナギ(オノエヤナギともいう)は特に成長の早い樹種とされています。しかし,畑など本来の自生地と異なる場所に植栽した場合,どのような成長を示すかは分かっていません。また,ヤナギは雌雄異株でクローンによる形質や成長差が大きいとされており,その差がどれだけあるのか,優良なクローンをうまく選抜できるのかなど,栽培技術を確立する上で不明な点が多く残っています。農林水産省・先端技術開発研究「新需要創出のための生物機能の開発・利用技術の開発に関する総合研究」(バイオルネッサンス計画第�郡�,平成10〜12年)において,「ヤナギの特性解明」に関する研究が北海道支所を中心に行われました。ここでは,その成果について紹介します。
2.生産力
北海道産のヤナギ5樹種,計54クローンの成長を調べた結果,エゾノキヌヤナギが最も成長量が大きいことが分かりました(写真1)。1ha当たり,2500,5000,10000,20000本の密度で挿し木植栽したところ,8年後の1本当たりの材積は密度の低い所ほど材積が大きく,平均で6.8〜28.1千cm3となり,クローンによっては成長量に4倍もの差があることが分かりました(図1)。幹の材積成長量は20000本区が最大で,平均すると5〜7年生で110〜150m3/haとなりましたが,その中の優良クローンでは平均年間成長量が30m3/ha,乾燥重量に直すと12〜13ton/haという生産量を示しました。これは,日本の代表的な植林樹種であるスギやヒノキの成長量をしのぎ,熱帯の早生樹に匹敵するほどでした。
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写真1. 植栽したエゾノキヌヤナギの生育状況(植栽後4年)
図1. エゾノキヌヤナギ8年生のクローン・植栽密度別単木幹材積
3.光合成
エゾノキヌヤナギ,ナガバヤナギは河川敷周辺に自生します。河川敷は水分条件がよく,河川によって栄養分が常に供給されている立地です。畑に植栽したヤナギの水利用特性を明らかにし,成長については速効性肥料と遅効性肥料を与え,その生理的特性を探ってみました。光合成を行うと,葉の気孔が開き,水が蒸散します。つまり,気孔が大きく開くと光合成速度が高くなりますが,水の消費量も大きくなります。図2はいろいろな樹種における気孔開度と光合成の関係を示したものです。成長の旺盛なクローンの光合成による二酸化炭素固定能力は,日本産樹種の中で最も優れており,熱帯の早生樹とほぼ同じ値を示しました。ヤナギは気孔を大きく開き,効率よく二酸化炭素を取り込むことで光合成を維持していますが,結果として蒸散も大きくなるので,成長には多量の水を必要とすることが分かりました。一方,肥料のタイプ(効き目の長さ)を変えると,図3のように緩効性肥料が蒸散減少に有効なことが分かりました。つまり,ヤナギは光合成,蒸散ともに大きく,成長に多量の水を必要としますが,緩効性肥料の施肥によって,河川敷より乾いた条件の畑地においても,高い光合成能力(生産力)を保ったまま成長できることが分かりました。
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図2. 各樹種における気孔開度(蒸散量)と光合成量(生産力)との関係
アカシアマンギウムは熱帯産の早生樹種
図3. エゾノキヌヤナギ,ナガバヤナギの成長優良クローンにおける施肥に対する気孔開度(蒸散量)と光合成量(生産力)との関係
4.雌雄の差
ヤナギは雌雄異株のため,成長量や花や実(繁殖器官)への物質の投資量に雌雄間の差があるかどうかを調査しました。エゾノキヌヤナギ,ナガバヤナギの雌雄各16クローンの挿し木植栽試験では,地上部の成長量(2年生)には雌雄差が認められませんでした(表1)。ヤナギはその年に伸びた枝(当年枝)に花芽を作り,植栽したヤナギは2年目から花を付けました。繁殖器官への物質投資量(率)の時間変化を見ると,雄の場合は開花期(3月下旬〜4月上旬)に,雌の場合は結実期(5月下旬)に最大値を示しました。最大投資率を比較すると,雌株では枝の成長量の8%前後が花芽や実に回されますが,雄株ではそのおよそ半分で,大きな雌雄差が認められました(図4)。従って,成長量が同じなら,繁殖器官へ回すエネルギー(物質)が少ない雄株ほど,我々が利用できる幹・枝の生産効率は高くなり,さらに,これらの物質は春先に地下部から供給されていることから,開花前が最も収穫量が高くなることが分かりました。
表1. エゾノキヌヤナギ,ナガバヤナギ地上部成長量(植栽後2年目個体)の雌雄差
図4. 当年枝における最大繁殖投資率の雌雄差及び種間差繁殖器官重率とは繁殖器官重(乾重, g)/枝サイズ(根元直径2 x 幹長,cm3)。
5.優良クローンの選抜
より生産効率の高いヤナギを利用するためには,優良なクローンを見つけること(育種選抜)が必要です。そのためには,遺伝率やクローン間差を明らかにしなければなりません。遺伝率とは環境条件にかかわらず現れる形質の割合,つまり遺伝子に支配された強さを表し,この値が大きければ育種効果が高いといえます。いろいろな外部形質において,植栽後3年間の遺伝率を見てみると,直径や幹長などで値が高く,特にエゾノキヌヤナギではシラカンバ等の他種より遺伝率が高いことが分かりました(図5)。また,クローンごとに形質の年次相関を求めると,強い正の関係があることが認められました(図6)。つまり植栽後1年目に高い値を示したクローンは3年後でも同じく高い値を示しました。これらから,エゾノキヌヤナギの場合クローン選抜による高い育種効果が期待できます。また,クローン間の成長の優劣は3年後も変化しないことから,植栽後1年目の測定結果から優良クローンを選抜(早期選抜育種)できることが分かりました。
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図5. エゾノキヌヤナギとシラカンバの形質(幹の直径及び長さ)における広義の遺伝率の違い
図6. ナガバヤナギ及びエゾノキヌヤナギにおける各クローンの形質(根元直径2 x 幹長)の年次相関関係
6.ヤナギの将来
この研究によって,ヤナギを効率よく育てるために必要な情報が得られました。ヤナギは北海道から九州まで広く生育していますが,現在はコストや用途の問題から利用されないまま放置されています。しかし,エネルギーや環境問題などの面から,再生可能な木質資源の有効利用を求められる日が必ず訪れます。将来,北欧のようにヤナギが休耕地に栽培される時には,その技術確立のために,この研究結果が大きく貢献することでしょう。
平成13年度 森林総合研究所 研究成果発表会
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