学生時代を長野で過ごした私も、冬季五輪施設はその建設現場の中を見る機会が無かった。今回、お誘いを受けて平成8年2月9日に建設途中のオリンピック冬季競技大会スピードスケート会場を見学させて頂いた。
現場は長野市風間、長野道須坂長野東インターチェンジから長野市に向かい、千曲川を渡ると程なく左手に見えてくる。敷地面積約111,000u。建物は、長さ約230m、幅160m、最高高さ43.45m、建築面積約31,300u、最大観客収容人数20,000人の非常に大きな建築物である。設計施工は、久米・鹿島・奥村・日産・飯島・高木設計の共同企業体で、信州の山並みMountainのMと、それをモチーフとしたM型の波が湧き起こる形から"M-wave"と言う愛称が付けられている。
建物の外観は、屋根の両端にそびえ立つ尾根と、なだらかな吊構造の稜線が、切り取るスカイラインの形を見る方位によって変化させる優れたデザインであり、長野県の西に位置する日本アルプス連峰を彷彿させる。
内部には、冬季五輪競技施設である400mスピードスケートリンク用のガスエンジン冷凍機による製氷設備や大きな固定スタンドとフィールド両側の可動スタンド、人工芝巻き取り装置他の充実した設備が設けられ、冬季五輪終了後にも、多目的に使用できる大きな屋内フィールドとして計画されている。
この建物の大空間を支える構造は、地上3階地下1階、22mまでの下部が鉄筋コンクリート造、上部が鉄骨造、吊屋根部分は半剛性鋼板集成材複合構造という混構造である。
吊屋根を構成する一本の部材は、厚さ12mm幅200mmの鋼板を縦使いされ、その両側から幅125mm材成300mmのカラマツ製集成材が挟み込んでいる。集成材の曲率半径は162.5mであり、長さ約10mほどの部材が、7000本余用いられている。鋼板は高力ボルト接合、集成材は蟻継ぎ併用の集成添え板釘打ち接合で接合され、それぞれの接合部は互い違いに配置されている。また吊りスパンは80mあり、この部材が600mm間隔で配置され、隣の部材とは鋼板のつなぎ材によって相互に繋がれている。施工は、吊部材6本を単位として安定した形に地上で組み、屋根下地の構造用合板を貼ってから、特殊なジャッキを使って最終形態を保ったままリフトアップして、鉄骨支持部に固定する。その後、この上にステンレス製屋根材を葺いて出来上がる。
個人的には、この建物をして集成材構造とは言い難いと思うが、内部から見た鉄骨基部と吊屋根が織り成す連子格子は、その巨大さを感じさせずに、日本的でかつ軽やかな印象を受ける。 長野オリンピック は、1998年平成10年2月7日から22日までの16日間、 パラリンピック は、同年3月5日から14日までの10日間開かれる予定であるが、この日本的な美しい空間で、君が代が聴けることを期待して止まない。
長野オリンピック / パラリンピック では、かつてない数のメダルを日本選手が獲得してくれました。今後はそのメモリアル的な施設としても、各競技施設の有効活用と維持管理が問題となってきます。木材を利用した施設に関しては、その耐久性と性能に関しての経時的な変化、人々が受ける印象の変化について注目していきたいと考えています。
1998/03/27 軽部正彦記