スギ赤枯病菌分生胞子の人工形成に関する研究
陳野好之
要旨
スギ赤枯病の伝播と感染に重要な役割を持つ病原菌Cercospora sequoiae分生胞子の人工培地上における多量形成法の開発研究について述べた。スギ赤枯病菌は他のCercospora属菌と同様に,人工培地上で分生胞子を形成しない性質を有する。このために,実験に多くの分生胞子を必要とする病理学的諸研究や室内での防除薬剤検定などの重要研究が実施できずに残されていた。本報では従来試みられなかった本菌分生胞子の新しい人工多量形成法を開発して,この課題を解決した。すなわち,寒天培地上に生育させた本菌の菌糸(小型菌そう)を特定の液体培地に移植,25℃,15〜20日間振とう培養する。これによって培地内に球形,黒色,堅い小型の菌糸塊(菌核様体)が形成される。これらの菌核様体を培地より取り出して湿室に収め,25℃,光条件(自然光下または処理前半に人工光照射,処理後半暗黒下)を加味して約5日間保持することによって,菌核様体表面に多量の分生胞子を密生させることに成功した。この分生胞子形成法によると,宿主や分離源の違いとは無関係に,新しい分離菌株のすべてに胞子形成が認められた。分生胞子が形成された菌核様体を殺菌水に入れ,約5℃,約20時間保存した後に軽く振れば分生胞子浮遊液が得られる。これらの分生胞子はスギ実生苗やさしき苗に対してかなり激しい病原性を示した。また,本法に若干の改良を加えることにより,他の数種Cercospora属菌の分生胞子形成を可能にした。
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