無処理および無機塩で処理されたセルロースの熱分解による重合度および重量の変化
平田利美
(概要)
1.緒言
木材は加熱されると気体、タール、炭に分解される。タールはさらに分解されて、可燃性気体を生成する。この可燃性気体と空気が混合した雰囲気は、口火や火花等で発火する。この発炎によって木材はさらに強く加熱され、燃え広がって行く。このような現象を木材成分の熱重量測定(TG)による熱分解挙動および合有量等からみると、セルロースが木材の燃焼をになう主要な成分であることが分る。防火木質材料を開発するためには、木材の燃焼に先行する熱分解およびこれにおよぼす防火薬剤の作用を明らかにすることが重要である。しかし、木材は複雑な多成分系の物質であるため、この研究では単純な構造のセルロースを対象に、各種の薬剤で処理し、それらの熱分解挙動を求めることにした。 セルロースの熱分解に関する今までの研究は重量減少の測定にもとづいたものが主である。その他、示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)等の熱分析法による結果が報告されている。しかし、これらの方法ではセルロースの物理的性質の変化を知り得ても、これらの変化をもたらした内部構造の変化、たとえば化学構造の変性、高分子鎖構造の変化、結晶構造や配列の変化等々を知ることはむづかしい。ここでは、粘度法によって重合度を求め、高分子鎖としてのセルロースの熱分解挙動を分析すると共に、重量減少測定、およびTG,DTA,DSC等の熱分析を補足的に行うこととした。
一方、処理薬剤としては、防火薬剤としてよく使われているリン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、およびホウ酸ナトリウムをとりあげた。さらに、熱分解に及ぼす効果を比較するため、防火効果のない塩化ナトリウムも選んだ。
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