マツカレハ幼虫の光周反応に関する研究

山田房男

   要旨

 マツカレハ幼虫の光周反応を明らかにするために,個 体別の飼育実験によって,休眠と日長との関係,休眠誘起のための臨界日長,休眠型幼虫と 非休眠型幼虫の発育経過のちがい等をしらべ,野外におけるマツカレハの生活環の中での幼 虫の光周反応の意義について考察した。すなわち,マツカレハ幼虫の休眠は短日条件によっ て誘起され,幼虫の50%の個体が休眠するための臨界日長は,25℃の場合,茨城県村松産や山 口県見島産では15〜15.5時間,鹿児島県山川産では14.5〜15時間の範囲にあった。また,100 %の個体が休眠するための最大日長は,村松産では14.5〜15時間,山川産では13〜13.5時間に あった。そして日長感受期は,2齢期以後の幼虫にみとめられ,2齢期における影響が発育経 過に強く作用していることが観察された。また,休眠型幼虫の最終齢は8齢以上の場合が多い のに反し,非休眠型では6齢が普通で,5齢または7齢の場合もある。幼虫期間は,25℃恒温下 であっても,休眠型が著しく長くなる。既に休眠状態にある幼虫に対して,長日条件がその 休眠の消失を促進させることも観察された。なお,臨界日長ばかりでなく,発育経過も幼虫 の産地のちがいによって異なることが判明した。これらの事象から,マツカレハの光周性は, その生活環を自然界に適応させるために獲得された特性であると考えることができる。

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