放射線照射によるスギの体細胞突然変異の誘起について

村井正文

   要旨

 本研究では,スギを材料に放射線照射による体細胞突然変異を得る ための育種研究として,体細胞突然変異の頻度を左右する要因のうち,スギの系統,照射線量,照射時 期(季節),および剪定の有無等について実験を行った。また,スギで体細胞突然変異が区分キメラや 斑点として発生する割合が他の樹種と比較して低く,完全に変異している体細胞突然変異(枝変り)が 多い理由について解剖学的な研究を行った。
 その結果,品種による体細胞突然変異の発生に大きな差があった。さらに,幹の上部に着生する一次 枝,多肥栽培,夏期の照射,および無剪定等の要因により,より多くの体細胞突然変異が発生すること が明らかになった。この理由として,放射線照射による障害のため一時細胞分裂が停止した後,細胞分 裂速度を高め,短期間に放射線障害を修復するような条件のもとで変異細胞と正常細胞間の競合期間が 短くなる。その結果,変異細胞が体細胞突然変異として観察できるまでに生長する機会が多くなるもの と思われる。また,スギで区分キメラや斑点としての体細胞突然変異が少なかった。スギは本来的に生 長点の構成細胞数が少なく,かつ低線量でも茎頂分裂組織の破壊が生じる。その後少数の細胞から新し い生長点組織が形成されることと,スギの茎頂分裂組織の生長は細胞分裂と伸長が併行的に行われる性 質であるため,変異細胞と正常細胞の競争と淘汰の結果,全体が変異した体細胞突然変異(完全枝変り) が多いと考えられる。

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