長谷川敬一,久田喜二
わが国の林業経営はこの10数年以来,材価の低迷と生産費の 高騰に直面して,造林投資の採算性は極端に悪化した。本報告では森林純収穫と造林投資の利廻 りを採算性の指標として約400の市町村について昭和40〜51年の11年間における経年変動と地域較 差の検討を行い,次のことを明らかにした。
調査期間内の経済変動により昭和40年に比較して51年は賃金,苗木価格は5倍前後の上昇をみた が,立木価格はヒノキが3.5倍,スギ,マツ,カラマツでは2倍弱の上昇にとどまり,投入面,産 出面の上昇に偏りがみられた。この結果,森林純収穫は樹種により0.95〜3.0倍の上昇をみたが, 一般物価ならびに賃金の上昇を加味したとき実質的にはほぼ低下し,利廻りも1.2〜7.0%低下し て,採算性は悪化した。その悪化傾向はカラマツが特に強くヒノキでは弱いなど樹種による違い がみられ,採算性の樹種間較差は広がった。また,採算性の悪化には地域性がみられ,地域の類 型化による比較では立地条件の良い地域,とくに育林技術面,流通面ともに成熟した先進林業地 域での低下は少なく,立地条件の悪い地域,とくに後進林業地域で低下が多く,なかんずく多雪 地域での低下がめだち,採算性の地域較差は広がる傾向がみられる。採算性の地域較差を生む要 因を森林純収穫からみると,立地価格の寄与が大きく,ついで伐期が寄与し,投入面での寄与は 小さい。また経年変動への寄与は投入面での要因はいずれもマイナスに働くがその影響は少なく, 経年変動の大部分は主伐材価に起因している。
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