山家義人,小川 眞,石塚和裕
栃木県矢板市高原山県有林内の45年生ヒノキ人工林において 堆積腐植の分解と土壌微生物相を調査した。この林分の土壌は適潤性褐色森林土BD 型であった。斜面では落葉の流亡と表土の攪拌によって見かけ上A0 層の形成がなかったが,平坦面では厚さの一様なA0層が分布していた。林内植生は単純でA0 層はヒノキの落葉のみからなり,分解葉や粗腐植の蓄積が多く,落葉の分解は不良であった。落葉 分解力の強い担子菌類がほとんどないため,他の樹種の林に一般的に見られる落葉の白色腐朽は少 なく,褐色腐朽による分解が主であった。
ヒノキの細根はA0層に上昇して生長し大部分がVA菌根を形成した。A1 層では細根量が少なかった。
土壌微生物の水平分布については地点による微生物数の差が小さく,A1層 土壌についてほぼ一様な分布状態が認められた。微生物群の中では細菌がもっとも多く,放線菌が これにつぎ,糸状菌はコロニー数にしてそれらより2桁少なかった。垂直分布については細菌と放線 菌がA0層から鉱質土層にかけてほぼ連続的に変化するのに対して,糸状菌は A0層と鉱質土層との間で不連続な分布を示した。炭素源または窒素源を変換 した培地でHA層とA1層の土壌微生物を分離した結果,リグニン分解カを示したのはPenicillium sp. のみで,他のリグニン分解微生物は出現しなかった。キチン分解力をもつ放線菌はHA層に多かった が,細菌と糸状菌は少なかった。有機態窒素を利用する細菌と放線菌はHA層に多く,硝酸態や亜硝 酸態窒素を利用する細菌と放線菌はA1層で増加するなどの特徴が認められた。 根圏の微生物相は季節変動が大きく,根の生長につれて変化するものと思われた。表層土壌の硝化 菌数は少なかったが,季節や場所による変動が見られ,秋には斜面で増加した。
ヒノキ人工林の土壌生態系は他の森林にくらべて,林内植生,土壌動物相,土壌微生物相,菌類 相などが単純化する傾向を示し,表層土壌の酸性化や落葉分解の異常など土壌生態系としても特殊 なものとなっている。
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