谷本丈夫
インドネシア共和国には2,400haの焼畑に由来するアラン・アラン 草原があるといわれている。これらの草原はいずれも熱帯降雨林気候下にあって,かつては広大な森林 地帯であったと思われる。したがって,これらの草原の種構成や遷移系列を明らかにすることは,生態 学的に興味あるばかりでなく,森林造成などの基礎として造林学的にも重要である。
筆者はこのような観点から1978年7月2日から29日まで,南スマトラ州ブナカット地区においてアラン ・アラン草原の植生調査を行い,種構成や遷移系列について検討した。調査地はFig.1に示すとおり, パレンバンより180qほど離れたプンドポを中心とする約5万haである。
植生調査はTable 1に示したように,被度と頻度の両方を考慮したブラウン・ブランケの優占度法で 行った。また,同時にそれぞれの植物の草丈も測定した。方形区の大きさは,アラン・アラン草原では 2m×2m,木本期の群落では5m×5mおよび10m×10mを採用した。
(1)種組成と群落型区分
ゴム園およびゴム園放置跡の植生は調査できなかった。この系列の群落型を除くと,わが国のメヒシ バに近縁のAxonopus compressusを中心とする芝生状の草原,チガヤ草原(アラン・アラン), 二次林,そして天然林の4つの群落型,さらにチガヤ草原(アラン・アラン)は,丈の低いアラン・ア ランだけが目につく亜型,上層部にEupatorium odoraeum,下層から中層にかけてアラン・アラ ンが生育し,二段の階層をもつEupatorium odoratum−アラン・アラン亜型,同じく上層にノボ タンの近縁種であるMelastoma affineやわが国でもシチヘンゲなどと呼ばれ栽培されている Lantanaなどが生育し,その下層にアラン・アランが存在するMelastoma−アラン・アラ ン亜型の3つに細分できた。
(2)アラン・アラン草原の遷移系列
前記の群落型は,火入れと踏圧の加わり方の相違によってもたらされている。これらの人為的取扱い と生育する植物の生態的特性とから,それぞれの群落型の関係はFig.2のように整理することができる。 一つの群落型から次の群落型への時間的変化は検討できなかった。アラン・アランの活力は,火入れ行 わなければ,先駆樹種の急速な生長により2〜3年で低下するか枯死するといわれている。しかし,植生 遷移の進行は群落周辺の条件によって,さまざまな形態をとり,たとえばAxonopus compressus 型やアラン・アラン亜型のように,強くそして長期にわたって人為の影響を受け,著しく単純になって しまった群落では,そのひろがりの大きさからみて2〜3年程度で木本群落に移行できるとは思われない。 また,この地方では先駆樹種の森林から極相樹種へ移行中の森林はみることができなかった。これは付 近に極相林を形成する樹種の母樹のなくなった広大なアラン・アラン草原では,極相樹種による森林形 成に非常に長い時間を要するためであろう。
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