北原英治
一般に野ネズミの防除方法としては,はじきワナなどのワナ掛けに よる機械的方法,食物連鎖などの生態系を考慮した生物学的方法および殺鼡剤による化学的方法があげら れる。しかし,実際にはその効果の明瞭な殺鼡剤による防除方法が頻繁に行われている。
山林や草原において殺鼡剤による野ネズミ防除を行う場合,小麦やトウモロコシのような穀物の粒に殺 鼡剤を混ぜて団子としたり,穀物の砕片に薬剤をまぶしたものを散布するのが普通である。そのための防 除の対象となる野ネズミ以外の鳥獣が喫食する可能性もある。また,毒餌にて死亡した野ネズミを食肉獣 が補食することで発生するかも知れない二次毒性についても考慮しなければならない。
殺鼡剤の散布量は野ネズミの生息数に見合った量を散布することが,前述の野生鳥獣への影響を少なく することから,また経済的な観点からも望ましいことである。本試験は,現在わが国の林野において広く 使用されている燐化亜鉛剤を用いて,野ネズミの生息数に応じた毒餌の適正な散布量を検討し,その基準 化を計る目的で行われた。
千葉県富津市郊外にある鬼泪山において,1979年9月24日から10月8日まで試験を行った。まず,50×80 mの調査区画を3か所に設け,各区画では10m間隔の格子状に生け捕りワナの設置場所を定め,1か所に1個 のワナを設置した(各区画−40個)。なお,毒餌としては,小麦粉を主成分に1%含有に調製された市販 の燐化亜鉛剤を用い,これをワナ設置か所に配置した(各区画−40か所)。毒餌の配置に先立ち野ネズミ の生息状況を記号放逐法にて調査し,配置後再びワナ掛けを行い,捕獲される記号個体の有無にて駆除効 果の検討を行った。毒餌の喫食量については,各調査区画ごとに一定量(1か所当り5g,10gおよび20g) の毒餌を配置し,7日間放置後回収し,十分乾燥して重量の測定を行い喫食量を求めた。各調査区での野 ネズミの生息数は,杉山式の算出方法によるとha当り53.8頭(5g配置区),56.3頭(10g配置区)と74.8 頭(20g配置区)であった。また各区の野ネズミの駆除率は,各々47.6%,76.0%と86.7%であり,さらに毒 餌の喫食率(喫食量/配置量)は,各々,53.7%,36.2%と30.2%であった。駆除率の最も高い区画は20g配 置区であるが,10g配置区でのそれとは,大きな差異は認められなかった。駆除率の最も低い5g配置区 (47.6%)では,逆に最も高い喫食率をみたが,毒餌配置期間が7日という短かさにもかかわらず,53.7% の高い率の喫食率を示したことは,配置量の少なさを示していると考える。
野ネズミの生息数と森林被害の程度は必ずしも一致するものではないが,一般にハタネズミの場合,ha 当り50〜60頭になるとヒノキ,アカマツ,カラマツ幼齢林で40〜50%の被害が見られるとされている。今 回の試験の結果では,ha当り55頭のハタネズミに対して,燐化亜鉛1%剤のha当り1sの散布で80%前後の 駆除効果が期待でき,この量が適正な散布量をきめる場合の一つの基準になるものと考えられる。
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