キクイムシ科の研究 第23報

日本産Xylosandrus属(甲虫目)

野淵 輝  

 Xylosandrus属のキクイムシはIpinae亜科のザイノキクイムシ族に属し,材中に巣を 作り,アンブロシア菌を食い生育する養菌性のキクイムシである。日本に分布する種類は,今回の研究で4種 が判明した。
 この属に含まれるハンノキキクイムシはスギ,ヒノキなどの針葉樹やブナなどの広葉樹の生丸太の害虫で, ピンホールによる直接的被害のほか,腐朽菌の侵入を促進させる間接的被害によって材質を著しく低下させて いる。この種類は,果樹園においてブドウ,カキ,クリに穿入し,致命的な被害をあたえ,茶園においてはチ ャノキの根部に穿孔食害して枯死に至らしめ,永年作物の害虫となっている。また,これは日本起源の種であ るが,日本の輸出材に穿孔していた個体が戦前ドイツ,アメリカ合衆国に侵入定着し,カエデ,ニレ,クルミ やカシの若齢造林木,ブドウなどの生立木や各種の生丸太を加害している。シイノコキクイムシは熱帯地方で はコーヒーの害虫として有名であるが,日本では茶園の小枝の害虫とされている。
 この属は1913年にREITTERが,前肢の基節が互に離れていることを特徴としてザイノ キクイムシ属Xyleborus ERICHSONから分離独立させたもので,ザイノキクイム シ属と形態,生態ともに類似した小さな属であり,普通世界各地の温帯,熱帯に分布している。
 筆者は大英博物館の標本,故高橋慶二郎氏収集の標本,ならびに筆者自身収集した標本1,244点について分 類学的研究を実施した。その結果ヒメハネミジカキクイムシを新種として発見し,Xyleborus cucullatus BLANDFORDがハネミジカキクイムシの雄で,ミナシゴキクイムシがハンノキキクイムシ の雄であることが判明した。本報告は,これらの記載と同定を容易ならしめるため全種の検索表を作成し,全 形図を図示した。また,記録された全種の加害樹種と分布を列記した。種名,加害樹種,分布は次の通りであ る。
 1. ハネミジカキクイムシXylosandrus brevis(EICHHOFF
   異名:Xylosandrus cucullatus BLANDFORD
   加害樹種:サルトリイバラ,コナラ,アラカシ,シラカシ,ウラジロガシ,コウゾ,ヤブニッケイ,タブノキ,カナクギノキ,クロモジ,オオバクロモジ,アブラチャン,マルバマンサク,アワブキ,ツバキ,シマイズセンリョウ,カキ,タニウツギ。
   分布:日本(本州,四国,九州),朝鮮,支那(台湾省),タイ。
 2. ハンノキキクイムシXylosandrus germanus(BLANDFORD
   異名:ミナシゴキクイムシXyleborus orbatus BLANDFORD
   加害樹種:チャボガヤ,ハイイヌガヤ,モミ,ツガ,オウシュウトウヒ,カラマツ,アカマツ,ヒ メコマツ,スギ,ヒノキ,サワラ,アスナロ,ヤマモモ,オニグルミ,サワグルミ,イ ヌシデ,シラカンバ,ミズメ,ヤマハンノキ,ハンノキ,ブナ,イヌブナ,カシワ,ミ ズナラ,コナラ,ツクバネガシ,アカガシ,ウラジロガシ,クリ,ツブラジイ,スダジ イ,ハルニレ,オヒョウ,ケヤキ,エノキ,ムクノキ,クワ,ヤマグワ,コウゾ,イチ ジク,ヤマグルマ,カツラ,ホオノキ,コブシ,シキミ,クスノキ,ヤブニッケイ,タ ブノキ,ホソバタブ,クロモジ,オオバクロモジ,アブラチャン,シロダモ,バリバリ ノキ,ハマビワ,ツルアジサイ,ノリウツギ,ウツギ,マルバマンサク,イスノキ,クマイチゴ,ナガバモミジイチゴ,ウワミズザクラ,チョウジザクラ,オオヤマザクラ, ヤマザクラ,カスミザクラ,セイヨウリンゴ,ナナカマド,アズキナシ,ネムノキ,サ イカチ,アカシア,モリシマアカシア,ハリエンジュ,サンショウ,イヌサンショウ, カラスザンショウ,ハマセンダン,ヒロハノキハダ,ニガキ,センダン,アカメガシ ワ,ツタウルシ,ヌルデ,ハゼノキ,ヤマウルシ,ウルシ,ヤマハゼ,アオハダ,ソヨ ゴ,カントウマユミ,ウリバダカエデ,イタヤカエデ,ハウチワカエデ,ヤマモミジ, コミネカエデ,ミツカエデ,トチノキ,イソノキ,ケンポナシ,ブドウ,ヤマブドウ, ノブドウ,シナノキ,アオギリ,ムクゲ,ツバキ,ヤブツバキ,チャノキ,ヒメシャ ラ,サカキ,ハマヒサカキ,キブシ,シマウリノキ,フカノキ,ヤツデ,コシアブラ, タカノツメ,ハリギリ,アオキ,ミズキ,ヤマボウシ,リョウブ,ツクシシャクナゲ, オオバツツジ,モチツツジ,ネジキ,ナツハゼ,シマイズセンリョウ,モクタチバナ, カキ,エゴノキ,ハクウンボク,ヤチダモ,ヤマトアオダモ,コバノトネリコ,ムラサ キシキブ,クサギ,ハマクサギ,キリ,キササゲ,ニワトコ,ヤブデマリ,ガマズミ, タニウツギ。
   分布:日本(北海道,本州,四国,九州,沖縄)クリル,朝鮮,支那(東北地方,福建省,台 湾省),ベトナム,アメリカ合衆国,中央ヨーロッパ。
3. シイノコキクイムシXylosandrus compactus(EICHHOFF
  異名:Xyleborus morstatii HAGEDORN
  加害樹種:アラカシ,シラカシ,ツブラジイ,スダジイ,ナンテン,クスノキ,ヤブニッケイ,タ ブノキ,ゲッケイジュ,ギンネム,モリシマアカシア,ネムノキ,ヤマザクラ,サンシ ョウ,ホルトノキ,チャノキ,ニッサ,カキ,オリーブ。
  分布:日本(本州,四国,九州,沖縄,小笠原),支那(東北地方,台湾省),フィリピン,ト ンキン,インドシナ,インド,セイロン,マラヤ,ボルネオ,スマトラ,ジャワ,セレ ベス,フィジー,サモア,ハワイ,セイチェルズ,マウリチャス,マダガスカル,アフリカ,アメリカ合衆国。
4. ヒメハネミジカキクイムシ(新種)Xylosandrus borealis NOBUCHI n. sp.
  加害樹種:不明。
  分布:日本(本州,九州)。

全文情報(3,126KB)