ブナ・イヌブナ天然林の高等菌類と土壌微生物相

小川 眞,山家義人,石塚和裕

   要旨

 栃木県矢板市のブナ・イヌブナ天然林において高等菌類と土壌微生物 相および堆積腐植の分解について調査を行った。堆積腐植の分布状態は林床植生の分布や微地形に左右さ れ,ヒノキ林にくらべて不均一であった。ブナの落葉分解は順調で,その分解型は落葉広葉樹林に一般的 なパターンを示した。落葉分解過程にはカヤタケやCollybia属など大形のシロをつくる帽菌類によ る白色腐朽が顕著に認められた。林分全面にわたって白色腐朽による分解が優占しており,褐色腐朽を主 とするヒノキ林とは対照的であった。ブナやイヌブナの細根の分布はA0 層の分布に左右され,F層に生息する菌根菌が多いために菌根量はA0層 とHA層に多かった。168m2のコードラート内に発生した高等菌類は44種, うち腐生菌23種,菌根菌21種であった。落葉分解菌は MycenaClitocybe 属が,菌根菌 は CortinariusRussula 属が優占した。土壌微生物の表層土壌における水平分布は糸 状菌を除いてほぼ一様となった。A0層については落葉分解の進行にとも なって細菌と糸状菌が交替し,放線菌には顕著な動きがなかった。A0層 から鉱質土層へかけて細菌と放線菌は連続的な動きを,糸状菌は不連続な分布を示した。表層土壌の微生 物の機能についてみると,セルロースや澱粉,糖などを利用する微生物がHA層で増加した。有機態窒素は 主として細菌によって分解され,A0層からHA層にかけてアンモニア化成 がすすみ,HA層とA1層で硝酸化成が進むものと思われた。ヒノキ林にく らべて硝酸化成作用は低いようであった。根圏土壌の微生物群の動きはA1層土壌のものにくらべてはげし く,季節による変化も大きかった。ブナ・イヌブナ林の高等菌類相と土壌微生物相は同一地域にあるヒノ キ林のものと全く異なっており,広葉樹伐採後にヒノキが造林された場合の土壌生態系の変化はかなり大 きいものと考えられる。

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