山谷孝一
ニホンカモシカ(以下,カモシカと略称)の北限をなす下北半 島は,奥地の一部にブナ天然林が分布するほかは,おおむね,ヒバ(ヒノキアスナロの林業上の俗 称)を主とする天然林からなる。これらの天然林は天然更新作業によって施業されてきたが,昭和 30年代より天然林の皆伐,造林地化が促進されてきた。本調査は森林施業の変化がカモシカの生息 環境にあたえる影響についてとりまとめたものである。
なお本調査は,北限地域のカモシカの社会構造解明のため,文部省科学研究費で実施された研究 の一部である。
天然林が伐採され,造林地化された場合には,林床植生の種類,繁茂量ともに増加する。カモシ カはその土地に生育する大部分の木本,草本類を採食するが,丈高い低木類,ササ類の密生地は生 息環境として好ましくない。カモシカの森林利用の形態からみると,いくつかのパターンがみい出 されるが,ヒバ林-ヒバ疎林(択伐)型とヒバ林(保護樹帯)-造林地(低低木)型がもっともカモ シカの利用にとって好ましい。ササ密生地ではカモシカの行動が阻害されるが,ブナ天然林地帯は カモシカの避難地域として確保されなければならない。このようなことから,下北半島全域にわた って保護樹帯をキメ細かく配置し,施業制限によって保残される奥地のブナ天然林地帯まで連続さ せることは,カモシカの保護管理のうえからも,また,健全な森林造成のうえからも必要な施業方 法であると考える。
全文情報(3,928KB)