有光一登
森林に降水としてもたらされ,土壌に到達した水が,森林生態系内で はたす役割には二つの局面が考えられる。ひとつは土壌の水分環境,つまり無機的環境としての役割であり, いまひとつは森林生態系内の物質循環の担い手としての役割である。
第1報では筆者らの考案したテンションライシメーターによる土壌水分環境の経時変動の現地調査結果に ついて考究した。長野県志賀山(亜高山帯針葉樹林),静岡県浜北(丘陵帯アカマツ林),沖縄県南明治山 (亜熱帯常緑広葉樹林),東京都八王子(低山帯スギ林)の4か所の試験結果から概略以下のような結果を 得た。
1. 筆者らの考案し,用いたテンションライシメーターは土壌の水湿状態を直接観測できるものではないが, 日観測を行い難い遠隔地の森林下の,土壌の水分環境の経時変動を観測する簡便法として十分使用できるも のである。
2. 土壌の水分環境を律する要因は,年降水量に大差がなければ,蒸発散と土壌水流去量の違いであること が,上記4地点の観測結果からうかがわれた。志賀山の湿性ポドゾル化土壌と他の低海抜地域の土壌の湿潤 の程度の大きな差異は,ひとつには蒸発散量の差に負うところが大きい。沖縄の灰白化赤黄色土は志賀山よ りも年降水量の多い環境下にあり,しかも透水不良な土壌で,一見して表層グライと思わせる土壌であるが, その水分環境は必ずしも志賀山のように,湿潤ではない。むしろ浜北の土壌に類似する水分環境といえる。 これも蒸発散の程度が土壌の水分環境を律する事例であるといえよう。
3. 沖縄の灰白化赤黄色土は上述のような水分環境下にあることから,単なる透水不良に由来する表層グラ イ土壌とは考えられず,灰白化層は表層グライ化作用とは別の生成要因によって発現したものとみなされる。
4. 同一地域の土壌においても,根系分布のちがいによって蒸散による水消費に差があり,同一土壌断面内 でも表層より下層が乾燥する事例がしばしば観測される。
5. 微地形のちがいによる土壌水流去量のちがい,土壌断面内の理学性の差異による透水性のちがいによっ て,同一地域の狭い範囲の土壌,同一斜面の土壌でもその水分環境に大きな違いのあることが観測された。
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