フタバガキ科樹木果実の飛散

玉利長三郎,Domingo.V.JACALNE

   摘要

 フタバガキ科樹木の果実の多くは2〜5枚の大型果翼をもっている。もともと5枚の花の等片のうち,よく発達 して木化するものと,途中で退化するものとがあるために,例外もあるが,一般的にはDipterocarpus Hopea属は2枚,Parashorea,PentacmeShorea属は長い3枚と短い2枚,Dryobalanops 属は5枚の果翼をもっている。これらの果翼は果実の飛散にきわめて効果的と考えられてきたが,Shorea contorta の母樹2本についてトラップ法で果実飛散距離を調べたところ,閉鎖した林内では大多数の果実は 母樹から30mの範囲に落下することがわかった。同時に,フタバガキ科果実の飛散に関するこれまでの記録を検 討したところ,強風で約1qとばされたり,傾斜面とか山頂近くの母樹の果実が熱帯驟雨で遠くに流されたり,ある いは鳥,リスなどの動物によって遠くに運ばれたりすることもあるけれども,閉鎖した林内で普痛に風が吹いている 条件では,いずれも母樹から20〜40m内に大多数の果実は落下するという事実が裏付けられた。フタバガキ科樹 木果実と同じように堅果ではあるが果翼をもたない日本産のブナやナラの果実は,ほとんど母樹の樹冠下か樹冠 の1.5〜2.0倍の距離までしか飛散しないが,有翼のトドマツ種子とイタヤカエデの果実の大多数は母樹から20〜30 mの範囲内に落する。すなわち,有翼種子または果実は無翼のものにくらべると風によって効果的に運ばれるとし ても,閉鎖した林分で通常風の条件下では有翼の効果はそれほど大きくない。
  Shorea contortaで得られた結果を基に試算すると,フタバガキ科を主要構成樹種とする熱帯降雨林の天然更新 に必要な単一杯母樹は最低haあたり4本となる。低地または山麓のフタバガキ原生林または2次林では,これら 必要な母樹は容易にみつかる。万一,同一樹種の母樹が不足または偏在するときでも,同じような材質をもつフタ バガキ科の他の樹種が活用できる利点もある。これらのことから,当面の問題点は“何時必要充分な果実が得ら れるかを予測する”ことにある。また,フタバガキ林業が低地林から山岳丘陵地に追いあげられている現状では, 必要な母樹が不足または偏在しがちになるので,ある程度植え込みを併用した施業体系を推進してゆくことになろう。

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