柔畑 勤
エゾヤチネズミの個体数変動要因のうち,特に繁殖に関する諸問題を明 らかにするため,北海道野幌のトドマツ天然林と泥炭地草原において,前者では1958〜1964年の7年間,後 者では1973〜1975年の3年間,調査を行った。この結果,トドマツ天然林の個体数変動は,増加,絶頂,減少, 停滞の四つの変動相に,また,泥炭地草原のそれは,増加,絶頂,減少の三つの変動相に,それぞれ区分 することができた。
これらの変動相と繁殖活動との間には密接な関係が認められ,増加期には,繁殖活動が活発になり,年間 出産数が増大したが,減少期には,増加期と全く反対に繁殖活動が不活発になり,年間出産数が非常に少 なかった。増加期には,積雪下での成長が活発になり,その結果,大きな体で,早い時期に春繁殖活動が開 始されたが,減少期には,それが大きく遅れた。絶頂期には,通常の季節的繁殖最盛期であっても繁殖活動 が完全に休止した。
エゾヤチネズミの繁殖活動には,密度依存的要因を基本にした繁殖抑制が生じた。個体群における繁殖抑 制作用の仕方には一定の傾向が認められ,同一齢級群内では,体長の大きい個体より,小さい個体にそれ が強く作用した。また,齢級群間では越冬個体群より春仔の方が,その作用を強く受けた。
個体群での繁殖抑制の作用の仕方と変動相との間には密接な関係が認められ,増加期には,生息密度が かなり高いレベルに達していても,繁殖抑制がまだ作用していなかったが,減少期には,それが低いレベル で,すでに作用していたと考えられる。
以上の結果から,繁殖期における亜成体の成長と繁殖,および越冬過程での越冬個体群構成個体の成長 と繁殖を,それぞれ測定することは,エゾヤチネズミの大発生の予測を可能にするものであると考えられる。
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