森林生産の場における根系の機構と機能 Y

根系の生長と水分の吸収

苅住 f

   摘要

 森林の生産を支える根系の,林内における分布状態や根量およびその 働きについて,これまで3報にわたって報告してきた。本報では主に根系の生長と,林木の生長に大きな役 割を果している根系の水分吸収について報告する。
 これまで幹,枝,葉など地上部の各部分の生長量については多くの報告があるが,根についてはほとん どみられない。ここでは立地,林齢の異なる多数の外分の根量測定資料から根の生長量を計算して,外分 の生長段階や各種立地条件における根の生長を量的に示した。
 根の生長量はスギ,ヒノキ,アカマツ,カラマツ共に林齢20年頃最大となり,この時期には毎年ha当た りスギ5t,ヒノキ,アカマツ3.5t,カラマツ2t程度であった。ユーカリノキ,フサアカシアは10年生前後 で6tに達した。ケヤキ(55年生)は2t弱であった。根の生長量は林齢が高くなると減少し,林齢30〜35年 ではスギは4.3t,ヒノキ2.5t,アカマツ2.4t,カラマツ1.8tとなった。林齢による生長量の変化は地上部 のそれに類似した。根の生長量は外分の密度や立地条件によって異なり,草木の場合,地上部重と同様に 密植林分では小さく,疎植林分では大きくなった。いまこの関係を30年生のスギ林についてみると,密度 比数が1.2の外分の草木の根の生長量は3.1sであったが,比数が0.5の疎植区は6.5sで前者のほぼ2倍で あった。立地条件についてみると,BA型土壌とBl E五型土壌に成立したスギ林では後者の根の生長量が大きく,胸高直径25pの外分で 前者の1.4倍程度であった。林木全体の生長量に対する根の生長量の割合はほぼ一定で,全体の23%程度 であった。
 根長の生長量は,中席の立地条件の30年生の壮齢林で,スギは208m,ヒノキは254m,アカマツは198m, カラマツは200mと推定された。また根端数の測定に基いて草木の根端表面積を推定したところでは,年 間の根端(白根)表面積の生長量は胸高直径25p程度の林木で,スギ2.9u,ヒノキ2.7u,アカマツ0.7u,カラマツ1.1uであった。ha当たりではスギ・ヒノキは2,000u,アカマツは250u,カラマツは500u となった。以上の根長・根端表面積生長量も立木密度や立地条件によって変化する。
 林木の生長は葉量や細根量と密接な関係がある。細根量1g当たりの林木の生長量,細根の表面積1p2当たりの生長量,全体の根系表面積当たりの生長量,細根量と葉量との 割合なども外分密度,立地条件など各種の因子によって変化する。いまスギについて細根量1g当たりの林 木(地上十地下部)の生長量を見ると幼齢木では25〜30g,壮齢木では20〜25g,細根表面積1p2当たりでは0.16〜0.17g(幼齢木),0.15〜0.16g(壮齢木)という値がえられ, 幼齢木の方がやや大きい傾向は認められたが,壮齢林では各林齢に対してほぼ類似の値がえられた。胸高 直径25p程度の調査木について樹種別にみると,細根表面積1p2当たり の生長量はスギは0.23g,ヒノキ0.13g,アカマツ1.4g,カラマツ0.27gとなり,アカマツは細根の物質生産 効率が大きく,ヒノキは小さいことがわかった。これを林木全体の根系表面積についてみるとスギは0.14g, ヒノキ0.06g,アカマツ0.24g,カラマツ0.10gとなった。この根系による物質生産量の割合は幼齢時にはや や大きいが,林齢を通じてそれほど大きな変化は見られなかった。つぎに土壌条件との関係をスギについて 見ると,BE型で0.235g,Bl D型 で0.134g,BlA型で0.066gとなり,乾燥土壌では根系の生産能率 は著しく低下してBE型立地の1/4になった。
 同化作用や吸収作用を通じて葉量と根系表面積は林木の生産に直接関係する因子であるが,両者の比はス ギ0.11,ヒノキ0.5,アカマツ0.09,カラマツ0.03となり,スギでは根系表面積1p2は0.11gの葉量を支えて いることとなり,ヒノキは根系表面積の割合に葉量が多く,カラマツは少なかった。乾燥土壌では葉量に比 べて根系表面積の増加が著しくて,地位指数15のBA型土壌では0.04となり, 地位指数23のBE型土壌では0.16となった。同様な解析を各樹種,林木の生 長段階,立地条件などについて行った。
 さらに林木の生長に直接関係する水の動きを根系の面から解析した。各樹種の蒸散係数から外分当たりの 吸水量を試算すると,中庸の壮齢安定林分ではスギは毎年ha当たり7,000〜8,000t,ヒノキは4,000〜5,000t, アカマツは2,000〜3,000t,カラマツは1,000〜2,000tとなった。林齢20〜25年の幼齢林では最も多くて,ス ギは15,000〜20,000tに達した。この吸水量は土壌条件によって変化し,BE型土壌では15,000t,BlD型で10,000t,Bl A型は5,000〜6,000tで,適潤土壌で多く乾燥土壌では減少した。乾燥立地のヒノキ・カ ラマツ・アカマツなどの林分では1,000〜3,000tになる。
 この吸水量と根量から細根吸水率を計算すると細根1g当たり年間吸水量は30年生の壮齢林でスギ8.5s,ヒ ノキ4.5s,アカマツ22s,カラマツ7sとなり,アカマツは最も大きい吸水割合を示し,ヒノキは小さい。BE型土壌のスギ林の例では18s,Bl D型では10sであったが,BA,Bl C などの乾性または弱乾性の土壌では4〜5sであった。
 つぎに以上の吸水量が土層ごとの根系表面積比によって各土層から吸収されるものとすると,スギ20年生林 分では年間総吸水量9,850t/haのうちT層から5,100t,U層からは1,800tが吸水され,T‐U層で6,900tが吸 収されることになる。この量は総吸水量の70%に相当する。両層の吸水量はヒノキ4,200t,アカマツは1,900t, カラマツは1,700tである。

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