遠藤泰造
林試研報321に掲載の論文「水源かん養林の機能理論と施業目標」 において,流域内の土壌水分不足量の分布を考慮した一降雨量と損失雨量との間の一般的傾向を示す 二つの実験式,L=L∞(1-e - kR)およびL=l 0+L0(1-e -k' (R-l 0) )を報告した。ここで,R は一降雨量(mm),LはR に対する流域平 均の損失雨量(mm),L∞,l 0および L0は一降雨直前におけるmm単位で表した流域平均の水分不足量,初期水分不足量および付加水分不足量,kとk'とは流域水分の損失係数である。山形試験地1お よび2号沢試験流域の雨量・流量の観測値を適用して,月別のL∞と k,L0とk'の各値を求めた。その結果,L∞・k =1,L0・k' =1という関係のあること が判明し,これについては報告した。その後,この経験的関係の成立する理論的根拠について検討し, 本報告では浸透能および保水能を有する流域を多数の単位面積に細分し,一降雨直前における単位面 積の土壌水分不足量をh,流域全体のh相対度数をW(h)で表すとき,一降雨直前の W(h)が指数分布に従うとき,L∞・k =1またはL0・k' =1の関係が理論的に成り立つことを説明した。したがって,上記流域に 関する限り,一降雨量および流出量の観測値から求めたRとLとの関係を示す経験式は, 一降雨直前のW(h)の分布が指数型の場合を示すものといえる。
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