前田禎三,宮川清,谷本丈夫
豪雪で知られる新潟県五味沢において,1966年に,ブナ林と その伐採跡地の植生と稚樹の更新について調査を行った。伐採跡地の多くは,戦時中に軍用材を 抜き伐りし,さらに炭焼に利用した後の林を伐採したもので,4m前後に達したブナの稚樹が多く, すでに更新完了という状態であった。他方,人為のほとんど加わっていない天然林を伐採した跡 地には,稚樹は極めて少なかった。当時そのような跡地にスギが盛んに植栽されていた。それら のスギ林を,1982年10月に調査したが,スギは雪害のために本数が著しく減少し,樹形も,正常 なものをほとんど見ることのできない不成績造林地になっていた。ところがスギ林のなかでも, ブナが更新完了状態であった跡地のものは,ひんぱんな刈払いに堪えてブナが生残り,やがてス ギを抜き去るような勢いを見せはじめていた。それに対して,人為のほとんど加わっていない天 然林を伐採した跡地のスギ林では,ブナをはじめ,有用樹種の稚樹をほとんど見ることができな かった。このような五味沢の調査結果は,人工植栽の可能な地帯と,天然更新によらねばならぬ 地帯との区分を適切に行う必要があることを示している。このことから,従来人工植栽の上限の 根拠になっていた,積雪地帯区分の見なおしについて意見を述べ,あわせてブナの天然更新につ いての提案を行った。
全文情報(2,974KB)