クロマツとアカマツ種子から分離された糸状菌と分類学上の知見

渡辺恒雄,植松清次,佐藤幸生

   摘要

 クロマツとアカマツ種子を汚染している糸状菌についての知見は,我が国はもとより諸外国でも比較的 乏しい。そこで長野県など6産地のクロマツおよびアカマツ種子を供試し,糸状菌を分離し,菌相を調べた。菌の分離は,できるだけ多くの 種を分離する目的で,十分に水洗しただけの無消毒種子を用いた。すなわち各試料当たり300〜500粒(合計2,000粒)の種子を水洗後素寒天 培地上に置床し,25℃と10℃に2〜10日間放置後,寒天培地に伸び出た単菌糸を寒天とともに切り取って純粋分離株を得た。その結果,各試 料当たり149〜491菌株,合計1,615菌株を分離した。これらは未同定菌を除き41属(ただし,担子菌2菌株は便宜上1属として取り扱った), 53種,3グループ,33タイプに同定できた。その内訳は,接合菌と子のう菌各2属,担子菌2菌株と不完全菌36属であった。産地や分離温度な どが異なると分離菌にも多少の違いが見られた。しかし,Alternaria,Arthrinium,Aspergillus,Aureobasidium,Cephalosporium, Chaetomium,Cladosporium,Curvularia,Penicillium,Pestalotia,Phialophora,Phoma,Trichoderma,Tripospermumの14属は,これ ら両種子のいずれかまたは両方で,一般的に見出された。また試料によっては,Diplodia,Phomopsisや未同定のX1 菌が高頻度で分離された。分離菌の中で,Camposporium,Humicola,Pyrenochaeta,Sporidesmium,Verticillumの各菌株は, 既知のいずれの種にも該当せず新種の可能性が高いが,今後の検討課題としたい。さらにPestalotiaPhomopsis各2菌のマツ 子苗への接種試験を行ったところ,各1菌株に病原性が認められ,分離菌の中に多数の種子伝染性植物病原菌が含まれていることが示唆され た。

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