鈴木健敬,Domingo,V.JACALNE
東南アジアの熱帯降雨林で有用なフタバガキ科樹種の更新 には,林内更新技術がきわめて重要である。本研究では,このような更新技術の確立に資するた め,6種の有用なフタバガキ科稚樹の生長や形態に及ぼす林内光環境の影響を検討した。すなわ ち,異なる林内相対照度1.8%,4.8%,11.7%,18.9%および開放した対照区に植栽した6種類のフ タバガキ科稚樹〔苗高5〜11p(樹種平均)〕の生長をおよそ1年半にわたって調べた。強い庇陰 下にある1.8%区では,植栽後約3か月で,Shorea almon,S. polysperma,Parashorea malaanonan の生存率が10〜35%に減少したのに対し,Hopea soxworthyi,Vatica mangachapiでは85%, 97%の高い生存率を維持した。Anisoptera thuriferaは65%であった。11.7%区,18.9%区で は全体に高い生存率を示した。対照区では,乾季の乾燥や高温などにより,S. polysperma, H. soxworthyi,V. mangachapoiなどの30〜50%が被害をうけた。植栽稚樹の樹高生長,直径 生長,重量生長などは,いずれも対照区において最高を示し,庇陰が強まるとともに減少した。 しかし,18.9%区,11.7%区などにおいては,減光の割合には,生長量の減少割合が少なく,強い 庇陰下にある4.8%区,とくに1.8%区では著しい生長低下が認められた。樹種別にみると,明るい 環境で旺盛に生長する S. almon,S. polysperma,P. malaanonan,A. thuriferaなどは 庇陰による生長減退が著しく,反対に耐陰性の大きいH. soxworthyi,V. mangachapoiな どは対照区でも前者に比べて生長量は小さかった。庇陰による形態的な変化は,樹種により異な るが,H/D比,T/R比,個体重に対する葉重の割合,葉重に対する葉面積の割合などが,照度の低 下とともに,ある範囲で増大する傾向を認めた。各樹種の光環境による反応は,その生青段階に よって変化すると考えられるので,樹下植栽による更新法の確立には,なお長期的な観察が必要 と思われる。
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