(研究資料)

日本産針葉樹材の発熱量について

阿部房子

   摘要

 木質エネルギーを考える上で,木材の発熱量は欠くことのできない燃料評価上の パラメータである。実燃焼の際の燃料の選択,燃焼装置の設計または商取引だけでなく,エネルギー資源量調査にお ける林分のポテンシャル推定に際しても必要な計算基礎となる。
 一般に針葉樹は樹脂・精油分が多く広葉樹より発熱量が高いことが知られている。里中によれば,北海道産針葉樹 材12種について最小4,820,最大5,170,平均4,960cal/g(全乾ベース)が得られており,これは同じく北海道産広葉 樹59種の平均値4,730cal/gより約200cal/g高い。しかし既往文献には意外と国産材,とくに針葉樹材についての実測 発熱量の記載が少く,産地や個体,個体内の部位その他の諸ファクター別に,それらを綱羅した試料の収集は難しい ので,やはり数多くのデータの積み重ねによる普遍的な数値の推定が必要である。林業試験場では1963年より10年計 画のプロジェクト「日本産主要樹種の性質」の対象試料として針葉樹24種,広葉樹46種を収集しており,それらの材 の採取地,木取り,比重,容積密度数,平均年輪幅をはじめ物理的,物理化学的および化学的諸性質が,極めて,こ とこまかに調査されている。このプロジェクト用試料の中より針葉樹19種を供試し,同時に比較のための国産ハイマ ツ材および外国産針葉樹材計6樹種についても発熱量を実測した。試料の番号・記号は上記プロジェクトと共通であ る。発熱量測定と同時に試料水分を測定し,実測値と全乾ベース換算発熟量とを併記した。発熱量測定はJIS M 8814 −1985に準じて行った。使用機種は島津製作所製自動ポンプ熱量計CA-3である。
 Table 1の1Jイチイ〜24Fヒノキアスナロについて得られた数値は,最大5,356,最小4,589,平均4,972cal/gで,標 準偏差161.3,変化率3.2%で,これらは前述した里中の北海道産材12種の値と極めてよく一致している(Table 2)。T able 2に同時に掲げた他の試料を含めて,樹皮以外の材についての変化率は極めて小さく,広葉樹材で1%,針葉樹材 で2〜3%である。なお樹皮では変化率8%である。出現頻度を示す発熱量の階層別棒グラフを早生樹およびその他の広葉 樹の材と,材に附着していた樹皮とについて作成したものを参考までに示せばFig‐1,2の通りで,変化率196の場合(材) と896の場合(樹皮)との分布の差が明らかである。
 つぎに前記したように今回の試料は一運の試験・分析がすでになされているので,その中から木材分析値をTable 3に 表出し(X1〜X6とする),今回実測した発熱量Yとの相関関係を調べた。 材の発熱量はTable 1の右端の列の辺・心材平均値とした。辺心材別の測定値を欠くものについては同表右から2列目の値 を使った。
 なお木材分析値の中,灰分%は表中に掲げているが,0.14%(トガサワラ)〜0.73%(ヒノキアスナロ)で平均0.38%であ る。この灰分値は石炭などに比べ非常に小さく,燃料評価上見逃せないことを附記する。X1〜X 6とYとの単相関の中,危険率5%でX2のアルコールベンゼン可溶分%と発熱量 Yとの相関関係が有意であった。α−セルロース%との相関は負で,危険率10%で有意であった。
 前者をFig.3に示す。なおリグニン%との相関はr=0.059で有意でなかった。
 つぎに,全乾木材中には約6%の水素が含まれ,十分な酸素存在下の燃焼時には当量の水が生成するため,全乾時でも約 300cal/gの発熱量低下がある。Fig.4に材の水分と発熱量の関係を示す直線を示した。縦軸はいわゆる低発熱量で,次式に より計算される。

    低発熱量(cal/g)=高発熱量(cal/g)-600(9h+w)/100

h,wはそれぞれ水素%および水分%である。Fig.4によれば水分50%のときの低発熱量は1,900〜2,000cal/gである。また材の気乾水分10〜12%の場 合低発熱量は3,800〜4,100cal/gである。

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