阿部恭久
クロサイワイタケ科およびシトネタケ科菌類の多くの種は広葉樹枯幹・枯枝上にしばしば発生し,材質 腐朽を引き起す。これらの菌類の一部の種は栽培きのこのほだ木上に発生し,特にシイタケ栽培においては植菌された種菌の菌糸の蔓延を さまたげることで問題となっている。わが国ではこれらの菌類に関していくつかの報告が出されているが,形態的な変異が大きい種が多い こともあり,未だ充分な分類学的・形態学的検討はなされていない。本報告では6種について不完全時代を含めて分類学的・形態学的検討を 加えた。
(1)Hypoxylon truncatum(SCHW.:FR.)MILLER(和名:クロ コブタケ)
黒色で極めて堅い子座を有し,子のう殻孔口の周囲に小さな円盤状組織があることが特徴である。ほだ木上に最も多く見出される種であ るが子座の形態は極めて変化に富む。今回仮にbovei-type(子のう殻数個からなる子座が分散して形成されるもの),marginat um-type(子座が半球形のもの),truncatum-type(子座が不定形に平らに広がるもの)の3グループに類別した。種々の広葉樹 枯幹・枯枝上,特にコナラ属枯幹・枯枝上。
(2)H.howeianum PECK(和名:ヒメアカコブタケ)
暗褐色の半球形の子座を有することが特徴である。アカコブタケと外見上区別がつかないが子のう胞子はより小形である。しかし両者の 中間形も存在する。アカコブタケは主にブナ上に発生し,クヌギ・コナラ上には現在のところヒメアカコブタケだけが見出されている。主 としてコナラ属枯幹・枯枝上。
(3)H.fuscum PERS.:FR.(和名:ハンノキコブタケ)
暗赤紫色の小さな半球形の子座を有することが特徴であるが,まれに子座はやや平たく広がる。シラカンバ属・ハンノキ属の枯幹・枯枝 上。
(4)Rosellinia aquila(FR.)DE NOT.(和名:カタツブタケ, 新称)
一見クロコブタケに似るが子のう殻孔口の周囲には特別な組織はない。子のう殻1個からなる黒褐色の小さな球形の子座が分散して形成さ れるのが特徴である。多くの場合子座の周囲に暗褐色の菌糸のマットが存在する。子のう胞子は大型。分生胞子の形・大きさは変化に富む。 広葉樹,主にコナラ属枯幹・枯枝上。
(5)Graphostroma platystoma(SCHW.)PIROZYNSKI(和名:ニマイガワキン)
黒色の堅いコウヤク状の子座を形成する。子座は上下2層からなり,成熟すると薄い上層部は剥離する。現れた下層部の子座の表面は子の う殻孔口の大きさによって滑らかに,あるいはざらついて見えるが組織的には違いはない。本邦産の標本の中には外国産の標本に較べやや 子のう胞子の小さいものが存在するが,胞子の大きさの変異は連続的である。子のう胞子は無色。PIROZYNSKIは本種をクロサイワイタケ科 に位置づけたが,形態的に検討するとクロサイワイタケ科とシトネタケ科の中間的性質を有するように思われた。種々の広葉樹枯幹・枯枝 上。
(6)Diatrype stigma(HOFFM.:FR.)FR.(和名:シトネタケ)
褐色,木質のコウヤク状の子座を形成するが古くなると表面は黒色となる。子のう胞子は薄黄色で,多数集合すると薄黄茶色に見える。 本菌は安田により我が国からはじめて報告されたが,それらの標本は現在のところ紛失している。安田の記載には本種の形状と一致しない 点があることから,安田は本種とニマイガワキンを混同していたのではないかと思われる。そこで今回改めて林業試験場菌類標本TFM-F-12 648を本種の和名の基礎標本として再指定することを提案する。培養には二つの分生胞子形成様式が存在することが確認された。種々の広葉 樹樹皮上,特にコナラ属・ブナ属上。
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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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