クロマツの近親交配に関する研究

15年間の生存率,樹高および直径におげる近交弱勢

斉藤幹夫,中島 清,明石孝輝,勝田 柾

   要旨

 近親交配は,有用遺伝子を集積し,有害遺伝子を排除するための一つの有効な方法である が,他殖性の林木では近親交配により次世代の生産と生育が阻害されることも多い。クロマツで,計画的に近親交配の家系群を 育成し,15年生時までの測定結果が得られたので,近交係数の増大による次世代での弱勢の発現について解析した。すなわち, 5段階の異なる近交係数(F=0,0.125,0.25,0.5,0.75)を持つ,2組の交配家系群を作り,1年生から15年生までの生存率,樹 高(苗高),直径について,近交弱勢の発現とその樹齢による変化を明らかにした。苗畑の3年間では,生存率,苗高,直径と もに弱勢は顕著でなく,生存率と近交係数との間には相関は認められなかった。
 試験地植栽後,生存率は樹齢が増すにしたがって低下し,とくに自殖第二代家系では,11〜15年生時の低下が顕著であった。平 均樹高,平均直径は,近交係数の増大にともない直線的に減少することが確かめられた。弱勢の程度は樹齢が増すとともに徐々 に増大するが,その後,弱勢木の枯損等により平均値が上昇し,樹高で7〜9年生時,直径で11年生時を境に減少することがわか った。15年生時における弱勢の程度(F=0.75の場合)は,樹高で15〜20%,直径で19〜24%であった。この弱勢の程度からみると, クロマツでは近親交配を組み込んだ新たな育種法を開発することが可能であろう。

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 −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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