島田謹爾
ブナ(Fagus crenata)およびアカマツ(Pinus densiflora)材のクラフトパルプ漂白 廃液から,低分子および高分子成分を分離し,前者より塩素化フェノール類,塩素化フェノールカルボン酸類を中心としたC6 -C0〜C6-C3(C6:芽香核,C 0〜3:側鎖炭素数)の化学構造を持つ21種の成分を確認し,定量するとともにそれらの成分の起源について考察した。また,後者に ついて塩素置換,メトキシル基の分解,芳香核の開裂等の著しく変質した塩素化リグニンの化学的特性を明らかにした。
漂白工程での有機塩素化合物の生成に及ぼす塩素化条件の影響について検討し,塩素添加量,パルプ中のリグニン量,溶液pHおよび温度が 塩素化合物生成の主要因となっていることを示した。また,塩素化工程で置換,酸化反応とともにエステル化反応が起こることを明らかにし た。
有機塩素化合物の毒性を活性スラッジの基質酸化活性に及ぼす阻害およびヒメダカの急性毒性試験により調べた結果,実質的な毒性物質は 塩素処理段廃液中に多量に含まれる低分子の塩素化フェノール成分で,その結合塩素およびフェノール性水酸基の増加が毒性を強める要因と なっていた。また,微生物による分解性は結合塩素,カルボキシル基の増加,フェノール性水酸基の減少により低下した。
有機塩素化合物の分解および低毒化に対する紫外線照射の効果を種々の雰囲気下で検討した。酸素置換,高pH下での紫外線分解により,塩 素の脱離,芳香核の開裂から有機酸の生成をともなう低分子化が起こり,廃液の脱色化,低毒化に効果が認められた。また,塩素化合物のC− Cl結合は光分解に高い反応を示し,メトキシル基の分解を促進する働きを示した。
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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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