山地流域における増水曲線の推定に関する基礎的研究

近嵐弘栄

   要旨

 山地流域で降雨に際して現れる増水曲線の推定法に関して,(1)山地小流域における増水 曲線の時系列的な推定法と,森林の影響の定量的な把握,(2)山地小流域で形成された増水曲線が渓流で合成され,洪水とし て下流へ伝播する過程の追跡,に重点をおいて論述した。解析には,宝川試験地,釜淵試験地,足尾試験地の3試験地に設けら れた九つの試験流域の水文資料を使用した。山地小流域における増水曲線の推定は,1)浸透能曲線法による有効雨量の推定, 2)有効雨量に及ぼす森林伐採の影響の定量的把握,3)単位図法による増水曲線の推定,に分けて行った。森林伐採の影響は, 実側の水分資料の解析により.伐採前,後における有効雨量推定のパラメーターの変化として把握した。その結果,小流域の土 層条件に応じて有効雨量に及ぼす森林伐採の影響を定量化すること,および渓床勾配等に応じてピーク到達時間を把握し単位図 を定量的に推定することが可能となった。渓流における洪水追跡には,マスキンガム法を用いたが,洪水波形の推定は,洪水の 伝播速度から増水曲線の重心の移動時間を推定する方法によった。山地小流域の面積雨量は,限られた地点雨量の観測値から小 流域ことに推定する方法を用いた。宝川試験地初沢試験流域(117.90ha)において,流域を18の小流域に分割し,小流域におけ る増水曲線の推定とそれらの合成,ならびに洪水迫跡により,流域全体の増水曲線を推定した結果,実測の増水曲線と良好な適 合性がみとめられ,洪水ピーク流量に及ぼす森林伐採の影響が把握された。

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     −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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