明石孝輝
精英樹選抜による育種効果は,林分内各個体の形質が,遺伝によっ てどの程度支配されているか,すなわち遺伝率の大きさで示される。精度よく遺伝率を推定するために は,林木集団の遺伝母数(相加的遺伝効果,非相加的遺伝効果,個体間競争効果等)を的確に推定する 必要がある。遺伝母数を推定するときには,林分内のマクロな立地変動による影響を除去する必要があ り,重回帰式による方法を適用した。また,隣接個体間に生じる個体間競争については,その効果を分 散値で示す方法を明らかにした。この方法により,個体間競争分散の全分散に対する寄与率の上限値は 約25%であると推定された。しかし,家系別の植栽区と,複数家系の単木混交植栽区で調べた結果では, 個体間競争に差が認められなかった。また,サシキクローンを用いた単木混交植栽林での調査結果から, 広義の遺伝率を推定する場合は,分子のクローン間分散と分母の全分散から競争分散を取り除く必要の あることを明らかにした。
スギの幼齢期の集団について遺伝率を推定し,その集団から,模型精英樹を選抜し,対照個体を無作 為に抽出して,両群の次代家系を育成した。両群の次代家系の平均値の差から選抜効果が確認された。 この平均値間差,すなわち遺伝獲得量から求めた遺伝率は,選抜対象集団で求めた遺伝率,対照個体家 系群の分散分析で求めた遺伝率,および対照個体群とその家系平均値間の親子相関により求めた遺伝率 の1/2〜1/3で,遺伝率の推定に問題のあることを指摘した。また別に行った試験でも,壮齢期の母樹と, その次代家系平均値との親子相関の有意性から選抜効果を確認した。遺伝率の推定精度については,主 働遺伝子による影響等が考えられ,今後さらに詳細な検討を行う必要がある。
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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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