北海道におけるキリ腐らん病に関する研究

佐々木克彦,松崎清一

   要旨

 北海道壮瞥町において,キリ胴・枝枯病害の実態調査を行った。その 結果,キリ樹の胴・枝枯生病患部から検出された病原菌は,腐らん病菌Valsa paulowniae(= Cytospora),胴枯病菌Diaporthe eres(=Phomopsis imperiales),さめ肌胴枯病菌 Botryosphaeria dothidea(=Dothiorella),Dothiorella sp.,Tubercularia sp. の5種類であった。これらの病原菌のなかで,主幹に病斑を形成するのは腐らん病菌1種である。腐らん病 被害は,二代目植栽地およびこれに隣接する新植地で著しい。これに対して,汚染林から離れた新植林で は,植栽後5年経過しても被害が認められていない。陥没病斑は,車牟頂部の二又分枝部・芽かき跡・枝打 ち跡および枯死枝の基部に形成される。若木では,芽かき跡・二又分枝部からの発病が中心をなし,とく に二又分枝部からの発病は病斑が下方に進展し,しばしば巻き枯らしを起こす。成木に形成される病斑は, ほとんどが枝打ち跡・枯死枝の基部に限られる。病斑は,キリの生長体止期の主として3月〜5月に拡大し, 生長期には拡大しない。病斑の年間進展速度は軸方向に平均17p程度である。キリ1年生苦本に対する接種 試験の結果,腐らん病菌は最も強い病原性を示した。Tubercularia sp.は,実態調査ではまったく 実害が観察されないにもかかわらず,病原生は腐らん病菌と同程度であった。この両菌は,5℃と10℃で病 斑の進展が大きく,15℃では極端に小さかった。胴枯病菌,さめ肌胴枯病菌およびDothiorella sp. の病原生は微弱であったが,胴枯病菌は苗木の活性が明らかに低下していると認められた場合に病原性を示 した。苗木の幹に人為的に付けた傷は,100%の確率で腐らん病を誘発した。しかし,芽かき跡では発病に むらがあった。PSA培地上における腐らん病菌の生育適温は20〜25℃,0℃でも生育可能で,本菌は好低温性 の菌であることが示された。

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    −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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