馬場強逸,高畑 滋,柴田弥生,中田 功,毛利勝四郎,横山長蔵
林地放牧を実施する際に,林業経営上問題となるのは,幼齢造林地放牧における造林木の損耗 と,それによる成林成績の低下が考えられる。本研究はこの点を明らかにすべく,北海道で最も広い人工造林面積をもち,かつ放牧 利用の経験のないトドマツについて,造林地を対象に放牧利用に関する資料を得ようとした。
試験地を札幌営林署札幌事業区57林班のトドマツ造林地に設定し,林内草種を牧草と野草,植栽方法を4本群状植えと2列植え,植 栽密度を3000本/haと1500本/haの合計8種類の処理を組み合わせた放牧試験地を造成した。ここに林齢2年目からホルスタイン種育成 牛を毎年5〜9月の約140日間,3年間放牧した。林齢5年目からは4つの野草牧区だけに調査を限定し,改めて牧草を導入した卓種転換 区と野草区を設けて,さらに12年間同様の放牧試験を実施した。
この結果,次のような成果が得られた。@現存草量を基礎にして牧養日数を定め,林齢2年生の8種類の試験区にそれぞれ放牧した ところ,植栽時に牧草化した4つの試験区は,3年間に造林木の被害が累積して放牧利用が不可能となった。しかし残りの4つの野草 牧区は比較的被害が少なかった。A放牧被害木の発生は,当初数年間に集中し,放牧3年目までに被害を受けた造林木の割合をみる と,粗植区が1密植区に較べてやや高かった。B植栽時の野草区に対しては通算15年間放牧したことになるが,途中から牧草を導入 した草種転換区を含め,4年目以降の造林木の被害はきわめて軽微で,成林成績も良好であった。林齢18年生の現存本数率は平均87 %である。C野草牧区および草種転換区の造林木の生長は,樹高,胸高直径,樹冠径の各々が禁牧区に比して10〜30%大きい。D 放牧当初の大被害木(蹄傷剥皮)を18年生時に樹幹解析したところ,傷跡は褐色に変色しているが,腐朽していないものが多かっ た。
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−林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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