服部重昭,阿部敏夫,小林忠一,玉井幸治
近年,関西地域では,人工造林面積に占めるヒノキ植栽面積 が高率で推移している。ヒノキ造林の拡大は,造林不適地にまで延びることが危惧されるので,造 林適地区分法の開発や適地選定指針の提示が行われている。一方,ヒノキ林の表土流亡に起因する 地力減退の防止については,林床植生やA0層の効果が指摘され ているが,その効果の定量的評価は進んでいない。そこで,ヒノキ純林へのアカマツの混交と林床 のササが,土砂とリターの流亡防止に及ぼす影響を定量的に把握した。これに加え,落葉堆積量と 侵食土砂量の関数関係を実験的に検討し,リター堆積の効果を数量化した。ヒノキ純林にアカマツ やササが侵入すると,年間侵食土砂量は1/4〜1/8,流亡リ夕ー量は1〜1/2程度まで減少した。また, A0層の一部を除去すると,侵食土砂量と流亡リター量が大幅に 増加した。これにより,アカマツの混交やササの侵入は,土砂とリターの流亡防止に効果があるこ とを実証した。土砂とリターの移動は,斜面を流下する地表流よりも降雨因子,特に10分間最大降 雨強度と降雨エネルギーに強く依存すると推察された。つぎに,許容限界侵食土砂量の概念を提示 し,花南岩地帯のA層生成速度から,これを1〜3t/ha/年と見積もった。これらの結果に基づいて, ヒノキ林の侵食防止を考慮した施業の目標を具体的に示すため,人工降雨実験から推定された侵食 土砂量と落葉堆積量の指数関数式を援用し,ヒノキ・アカマツ混交林において許容限界侵食土砂量 を維持するのに必要なリター堆積量が,5〜7t/haであることを導いた。
全文情報(1,508KB)
−森林総合研究所研究報告−
森林総合研究所ホームページへ