樹木根系が持つ斜面崩壊防止機能の評価方法に関する研究

阿部和時

   要旨

 この研究は樹木根系の持つ斜面崩壊防止機能の定量的評価方法を根系分布と根の力学的研究 をもとに開発することを目的とした。研究対象樹種として主要造林樹種であるスギを用いた。根系分 布の研究では,深さ方向の根の体積分布,直径階別本数,平均根系体積に関して規則性が見い出 され,それらの結果から根系分布再現モデルが提案された。根の力学的研究では,室内一面せん断 試験で根による土のせん断抵抗力補強強度(ΔS)が破壊規準の中で独立した定数項として表現で きることが明らかになった。この結果とせん断土層中の根の変形状態を表す式からΔSを表す基本 ΔSモデルを提案した。さらに,このモデルを実際の林地斜面に適用できるように根の引き抜き抵抗 力を用いた実用ΔSモデルに変形した。引き抜き抵抗力は比較的容易に測定できるうえ,根の複雑 な形状の影響,斜面の土質・土壌の影響も反映しているため,ΔSの推定には最も適している。実用 ΔSモデルは室内一面せん断試験と引き抜き試験,さらに原位置大型一面せん断試験と原位置引き 抜き試験によって,その有効性を確認した。最後に,根系分布モデルと実用ΔSモデルによって,ス ギ林分の斜面崩壊防止機能をシミュレートした。その結果,基岩層に亀裂が多い斜面や基岩層の表 面で風化が進んでいる斜面で根系は崩壊防止に重要な役割を果たしていることが示された。また, 現場の森林管理担当者が森林の崩壊防止機能を考慮した森林管理に利用できるように,崩壊防止 機能を評価する方法を提示した。

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−森林総合研究所研究報告−
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