北海道において発生した細菌性樹木病害の病理学的研究
坂本泰明
A Pathological Study of the Bacterial Tree DiseasesFound
in Hokkaido, Northern Japan
SAKAMOTO, Yasuaki
要 旨
Pseudomonas syringae によるイヌエンジュがんしゅ細菌病 (bacterial canker of Maackia amurensis var. buergeri)
北海道において,イヌエンジュの新病害が発生した。被害は甚大で,病斑部は主幹から細枝にまでおよぶ。羅病木から分離し,宿主に対し病原性を示した細菌を Pseudomonas syringaeと同定,本病を「イヌエンジュがんしゅ細菌病」と呼称することを提唱した。病徴の進展過程を明らかにするため,解剖観察を行ったところ,がんしゅの形成過程は以下のようであった。まず形成層付近に組織学的異常が現れ,組織の木化が抑制される。そして変形・肥大した柔細胞の増生が引き起こされ,初期病徴である樹皮隆起部が複数形成される。病徴の進展とともに柔細胞はさらに増生を続け,やがて隆起部は裂開し,融合する。以上の過程を経て,縦長のがんしゅとなると考えられた。
Erwinia salicis (Day 1924) Chester 1939 によるヤナギ類水紋病 (watermark disease of willows)
北海道において,ヤナギ類水紋病の発生を初めて確認した。本病は英国等でのみ記載されていた,葉枯・萎凋枯死を引き起こす病害である。羅病枝幹の横断面を観察したところ,辺材部に本病名の由来である,赤褐色〜黒褐色を呈する弧〜円上の着色部(watermark) が確認された。着色部から分離し,ヤナギ類に対し病原性を示した細菌は,Erwinia salicis と同定された。羅病木の解剖学的観察および通水機能試験を行ったところ,watermark内では柔細胞が壊死し,通水機能が失われていた。したがって,watermark部は通水機能を失ったdiscolored wood であり,その辺材部における形成・拡大が,萎凋・枯死の原因であると考えられた。
全文情報(5,906KB)
−森林総合研究所研究報告−
森林総合研究所ホームページへ