プレスリリース

平成16年12月20日



ポプラ完全長cDNAの大規模収集に成功

独立行政法人 森林総合研究所



  森林総合研究所は、ポプラ完全長cDNAの大規模収集に成功しました。私たちは、乾燥、高塩濃度や低温などの環境ストレス処理をしたポプラの葉を用い、完全長cDNAライブラリー注1)を作製しました。そして、完全長cDNAの塩基配列を解析し、EST注2)情報を大規模収集しました。これらの中には、多数の環境ストレス関連遺伝子が含まれていました。収集した完全長cDNAは、ポストゲノム時代における樹木の基礎生物学的知見の集積に役立つだけでなく、環境ストレス耐性樹木の創出などに利用可能で、今後多方面での活用が期待されます。

【樹木で初めて完全長cDNAを大規模収集】
  完全長cDNAは、遺伝子の機能解析や組換え体の作出にとって有用なバイオリソース(生物資源)です(図1)。これまでに植物界では、シロイヌナズナ、イネ、ヒメツリガネゴケの完全長cDNAが収集されています。私たちは、ポプラ(セイヨウハコヤナギ、Populus nigra var. italica)を用い、世界で初めて樹木の完全長cDNAを大規模収集しました。ポプラcDNAの塩基配列(EST)を解析した結果、様々な機能を持つタンパク質をコードする約4,500種の遺伝子が同定されました(図2)。

【樹木のポストゲノム研究に貢献】
  米国を中心とする研究グループは、平成16年9月に、木本植物で初めてポプラの全ゲノムの塩基配列を解読しました。その結果、ポプラの「モデル樹木」としての地位も揺るぎないものになりました。しかし、樹木の生理機能を正しく理解するためには、単なる塩基配列の羅列にすぎないゲノム情報だけでは不十分です。私たちの収集したポプラcDNAは、細胞内で実際に働く遺伝子を反映したものであり、ポプラゲノムの正確な解析に有効な情報をもたらすだけでなく、樹木のポストゲノム研究に大きく貢献します。

【ポプラ完全長cDNAの活用】
  樹木の環境ストレス応答機構や耐性機構の解明は、持続的な地球環境の保全を考える上で極めて重要な課題です。モデル樹木としてのポプラは、分子生物学的手法を用いた解析に適しています。本研究では、ポプラの完全長cDNAを大規模収集し、環境ストレス関連遺伝子群を同定しました。得られた成果は、樹木の基礎生物学的知見の集積に役立つだけでなく、遺伝子組換えによる環境ストレス耐性樹木の創出や優良個体を選抜する際のDNAマーカーとしての利用など多方面での活用が期待されます。


  本研究は、森林総合研究所交付金プロジェクト「ポプラ完全長cDNAライブラリーコレクションの整備(平成15年4月〜平成18年3月)」により推進されました。成果の一部は、学術誌Plant and Cell Physiologyの2004年12月号で公表される予定です。



用語解説

注1)完全長cDNAライブラリー
cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAである。完全長cDNAは、断片cDNAと異なり、タンパク質合成に必要な全ての情報を保持している。完全長cDNAライブラリーは、完全長cDNAを高効率で含むライブラリーである。

注2)EST
Expressed Sequence Tagの略、完全長cDNAの部分配列。





  独立行政法人 森林総合研究所 理事長 田中 潔
研究推進責任者 森林総合研究所生物工学研究領域長 篠原健司
         Tel: 029-873-3211(内線447)
研究担当者 森林総合研究所生物工学研究領域主任研究官 楠城時彦
         Tel: 029-873-3211(内線449)
広報担当者 森林総合研究所企画調整部研究情報科長 杉村 乾
          Tel:029-873-3211(内線225) Fax:029-873-0844




過去のプレスリリースに戻る