プレスリリース 平成17年11月9日
青変菌Ceratocystis polonicaがエゾマツを枯らすメカニズムを解明
(論文原題:青変病菌(Ceratocystis polonica)接種後のエゾマツに起こる水分通導阻害)
独立行政法人 森林総合研究所
北海道においては、エゾマツなどのトウヒの仲間が、風害後や伐採後のキクイムシの発生で大量に枯損することがあり、同じ現象はヨーロッパや北米でも大規模に発生し問題となっている。この枯損は、キクイムシが持ち込む青変菌によるものであることがわかったが、どのようにして枯死させるのかはよくわかっていなかった。
今回、エゾマツなどトウヒ属樹木を枯死させる病原菌が感染すると、木の幹の中では樹液の上昇が急激に減少すること、また、樹液流動の停止範囲は菌の分布域よりも広範囲に広がることがわかった。これは、青変菌への防御反応として樹木細胞で生産した物質が自らの組織内での樹液流動を阻害し、そのために枝や葉への水の供給が止まってしまうことを示しており、これが枯死のメカニズムであることがわかった。
これらの知見は北海道ばかりでなく、世界的に重要な樹木資源であるトウヒ類の大量枯死被害防止に役立てることができる。
【背景】
トウヒ属樹木は北半球の多数の地域で利用される有用樹種であるが、キクイムシ類が持ち込む青変菌Ceratocystis polonicaが、北欧やその他のヨーロッパの国々でノルウェースプルースなどを枯らして問題になっている。経済的損失が大きいことから、発病機構等について精力的に研究が進められてきた。しかし樹幹内部の現象をつきとめた研究報告はなく、発病機構はきちんと説明されていなかった。日本では北海道でトウヒ属のエゾマツが同様の枯死被害を受ける。筑波大学山岡裕一氏により、日本のエゾマツも欧州と同種の菌で枯れていることが確認されたので、発病機構に関する研究を進めることにした。
【成果・計画】
本研究では、この菌を接種したエゾマツ樹幹の解剖により、病気の進展経過を明らかにし、萎凋・枯死のメカニズムを解明した。菌を接種すると、約1ヶ月で葉の褐変が起こった。水の通り具合を見るため、根もとから水溶性色素を吸わせると、葉の褐変前に幹が水を通さなくなっていることがわかった。菌は接種した場所の周辺にしか広がっていないにもかかわらず、水を通さなくなっている部分は菌の分布を超えて急速に広く長く拡大することがわかった。枝への水分供給がほぼ停止した後に葉の枯れが起こった。菌がいないところでも水を通さなくなったことから、菌が直接通導組織を破壊しているわけではない。樹木の細胞は病原菌の侵入に対して防御反応を起こすが、それによって生成した代謝産物が通導組織内に放出されたため、自らの樹液の流動を妨げることになったと考えられる。これらの成果から、エゾマツの枯死は「Ceratocystis polonica菌が水分通導停止を広範囲に起こしたこと」が原因であると結論づけ、枯死のメカニズムを説明した。樹木病害の場合、菌の病原力は「宿主の細胞を壊死させる能力」で判定されることが多いが、本病では細胞の壊死は少なく、葉の枯死の直接原因ではない。これらの知見はほかの樹木萎凋病でも観察され普遍的現象であることを指摘した。
【成果の活用方法】
トウヒ属の他種の樹木にもあてはまる枯死メカニズムの解明であり、青変菌による萎凋病の基礎的研究成果として、国外の研究への影響が大きい。またこれらの知見は北海道におけるエゾマツの枯死被害防止に役立てることができる。
本研究はForest Pathology(英国)35:346-358(2005)10月号に掲載されました。
独立行政法人 森林総合研究所 理事長 大熊 幹章
研究担当者 : 森林総合研究所関西支所 生物被害研究グループ長
黒田 慶子(元北海道支所)
Tel:075-611-1201
広報担当者 : 森林総合研究所関西支所研究調整官 上杉 三郎
Tel:075-611-1201
Fax:075-611-1207
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