平成19年12月14日
森林総研がキノコの仲間(担子菌)の進化の目印(megB1)を発見
独立行政法人 森林総合研究所
森林総合研究所は、キノコの仲間である担子菌類全体のゲノムに共通して存在するDNA配列(megB1)を発見しました。担子菌類と他の生物とを区別できるDNA配列を発見したのは世界で初めてです。
今回発見されたmegB1の分布が担子菌類のゲノムだけに限られていることから、菌類の祖先から担子菌類が分かれて進化した時点でmegB1が生じたと考えられます。さらに担子菌類のなかでmegB1は、ゲノム内のリボゾームRNAという遺伝子の領域内にあるIGS1という領域内に存在する種としない種の2つのグループに分かれていました。このような分布の違いの原因など解明すべき点は残っていますが、megB1の発見は、今後、担子菌類の系統分類や進化機構の解明に多大な貢献をすると考えられます。
独立行政法人 森林総合研究所 理事長 鈴木 和夫 |
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研究推進責任者: | 森林総合研究所 研究コーディネータ 中島 清 |
研究担当者 : |
森林総合研究所 きのこ・微生物研究領域 |
広報担当者 : | 森林総合研究所 企画部研究情報科長 上杉 三郎 Tel:029-829-8130 Fax:029-873-0844 |
【担子菌類とは】 担子菌類は、落葉や木材の分解菌として、植物と共生し生長を助ける菌根菌として、そして、樹木などの病原菌等として自然界に幅広く分布し自然環境や物質循環を陰で支える重要な生き物です。現在、4綱33目130科1,353属29,914種記載され、菌類分類記載数の46.3%を占めます。なかでも「きのこ」で馴染みの深い担子菌綱は16目112科1,037属20,391種と担子菌類の7割近くを占めます。担子菌類の分類は、今日でも、技術的な困難さから、胞子や菌糸の色、形、子実体の特徴等の形態上の差違を基にした人為的な形態分類が中心です。近年、DNAによる分子系統解析法が担子菌類でも取入れられ、今回新発見したmegB1は系統解析に使用する上で役立つと注目しました。 【megB1は担子菌に広く分布している】 担子菌では最も知られているシイタケのmegB1は、リボゾームRNA遺伝子領域にあるIGS1に存在する500塩基対程度のDNA配列です。担子菌類以外の菌類をはじめDNA情報を得られる全ての生物でmegB1の分布を調べた結果、その分布は担子菌類に限られました。担子菌類37属119種について詳細に調べるとシイタケを含む10属27種がmegB1をIGS1内に含んでいました。残る種の内、全ゲノムDNAの塩基配列が分かっている担子菌ネナガノヒトヨタケ、オオキツネタケ、Phanerochaete chrysosporium(マクカワタケ属の仲間)では、DNA情報からmegB1はIGS1以外の領域にあることが分かりました。さらに、megB1は担子菌に広く分布していることも確認できました。megB1は遺伝子として機能している証拠はありません。通常、ゲノム上の遺伝子をコードしていない領域ではDNAの変異が蓄積しやすいため、ある特定のDNA配列が安定して保存される可能性は低くなります。megB1が担子菌類で安定して保存されているのは特異であると考えられます。そのため、megB1の塩基配列は、担子菌類に不可欠なものであると推察されます。 【担子菌の進化の目印】 この様に、megB1は数億年前に担子菌類が菌類の祖先から進化する起点でゲノムに獲得された配列で、そのゲノムの進化過程で重要なDNAとして働いた可能性を示す初めての発見となりました(図2)。megB1がIGS1にある型とない型の進化機構の解明やIGS1にmegB1を持つ10属27種が現行の分類体系では同じ科や目に属していないことの解析等、課題も残っていますが、megB1の研究は、今後、担子菌類の系統分類や進化機構の解明に多大な貢献をすると考えています。 【用語説明】 IGS1:Intergenic Spacer 1、きのこ等真核生物は4種類のリボゾームRNAの遺伝子(rDNA)があります。この4種類の遺伝子は、菌類では16〜18SrDNA、5.8SrDNA、25〜28SrDNA及び5SrDNAと表記されます。担子菌では、この4遺伝子が近接して配置しセットとなり、そのセットがゲノム上に複数個分布します。担子菌類のIGS1は、25〜28SrDNAと5SrDNAの間の200〜2000塩基対の大きさをもつDNA配列で、遺伝子をコード(遺伝子の情報を塩基の配列として暗号化すること)していない領域です。 megB1:Macroevolutionary Genomic Marker of the Fungal Phylum Basidiomycota 1 (担子菌類の大進化ゲノム指標1) 【本成果の発表論文】 タイトル:megB1,a Novel Macroevolutionary Genomic Marker of the Fungal Phylum Basidiomycota,Biosci. Biotechnol. Biochem.(真菌類・担子菌門の大進化に係わる新規なゲノム指標, megB1) 著 者:Babasaki K., Neda H., Murata H. 掲 載 誌:Bioscience, Biotechnology and Biochemistry(日本農芸化学会英文誌) 巻号(年):71巻8号(2007年) |
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![]() 図1. 菌界におけるmegB1の分布 |
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![]() 図2. 担子菌類におけるmegB1分布の詳細 |
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