樹木細根の成長とターンオーバー

1.主な研究内容-森林の炭素・養分循環における樹木の細根の役割について-

細根は樹木の生育に必要な水分や養分を土から吸収しています
 現在、私たちは主に樹木の細根の成長や枯死に関する調査に取り組んでいます。「細根」は、根系の先端部にある細い根(一般に直径2 mm以下の根)のことです。樹木は、この細根(と共生する菌根菌)を使って土壌から水分や養分を吸収します。
このように、細根は樹木の生育にとって無くてはならない大切な器官です。


アラスカに生育するトウヒ(Picea mariana)の細根の写真です。

細根は森林の炭素吸収機能においても重要な存在です
 現在、地球温暖化の影響が心配されています。温暖化現象の原因やメカニズムには諸説ありますが、その一つに、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇を原因とする説があります。これに対して、森林の樹木は光合成により大気中のCO2を吸収して成長するため、温暖化現象の緩和に貢献している可能性があります。このような森林の炭素吸収機能を評価するには、樹木の成長量や枯死量を測定する必要がありますが、土の中にある細根の成長量や枯死量を測定するのは難しく、データが少ないのが現状です。
 これまでの研究から、細根の多くは寿命が短く、短期間で枯死することが分かってきました。樹木はそれを補うために、新たな細根の生産を頻繁に繰り返しています。そのため、細根の生産量は森林の純一次生産量の数十%を占めるとも言われています。つまり、森林の炭素吸収機能について知るためには、幹や枝葉だけでなく、細根の成長量や枯死量を測定することも重要です。


この図は、森林における炭素の動きの概略について示しています。樹木の根は、光合成により作られた炭水化物を使って成長します(炭素の固定)。その一方で、樹木の根は枯死すると土への有機物(炭素と養分)の供給源となります。

私たちはこんな研究を進めています
 私たちの研究グループでは、スギやヒノキなどの人工林を中心に細根動態の調査を進めてきました。その結果、細根の成長と枯死・脱落が土壌の表層で盛んなことや、細根に対する乾燥ストレスの影響が土壌の表層で現れやすいことなどが分かってきました(野口ら2004、Konopkaら 2007)。今後は、土の中の養分条件の変化や、間伐などの森林施業が細根の動態におよぼす影響を明らかにしていきたいと考えています。
 その他、最近では北米アラスカ州のトウヒ林やタイの湿地林など、気候帯の異なる森林での調査にも取り組んでいます(Noguchiら 2015)。



この写真は、ミニライゾトロン法により撮影したスギの細根です(下記・関連する読み物5より)。写真のサイズは1.8cm×1.4cmで、写真中の数字は日付です。春に現れた細根が秋にかけて成長する様子や、白かった細根が茶色に変化する様子が分かります。ミニライゾトロン法は同じ場所を繰り返し撮影することができるため、細根の成長や枯死について、長期間にわたり観測するのに適した手法です。

関連する読み物
1)環境の変化によって大きく変化する樹木細根の成長量と枯死量
森林総研第2期中期計画成果集
2)アラスカ、シベリアの森林-永久凍土の役割と森林火災の影響
四国の森を知るNo.17
3)極限環境に生きる森林の姿-アラスカ内陸部の永久凍土上に広がるマリアナトウヒ林
四国の森を知るNo.16
4)森林生態系における樹木細根の動態とその調査手法
四国の森を知るNo.12
5)樹木の細根は成長と枯死を繰り返す
森林総合研究所研究成果選集(平成15年度)

ページトップへ戻る
森林総合研究所ホームページへ戻る
養分動態研ホームページへ戻る