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令和4年2月23日
小笠原諸島(以下、小笠原)は過去に一度も大陸と繋がったことのない海洋島であるため、独自の進化を遂げた固有種が数多く存在し、植物では在来種に占める固有種の割合は36%と言われています。入植以来、多くの外来種が野生化し、生態系に大きな影響を与えています。特に、薪炭材用に導入されたアカギは強い繁殖力で分布を拡大しており、固有種の生息の場を奪っています。母島の桑ノ木山は、その名前が示すように、かつてはオガサワラグワの巨木が繁っていたと考えられますが、現在はうっそうとしたアカギ林が広がっており(写真1)、オガサワラグワの姿はほとんど見られません。林木育種センター遺伝資源部では、オガサワラグワをはじめとする固有種を積極的に保存していく必要があると考え、平成14年より関東森林管理局と共同で、アカギを駆除した跡地に母島由来の13樹種を植栽し遺伝資源の保存に取り組んでいます。また、事業開始以降、保存した樹木の生育状況を毎年調査しています(写真2)。今回(令和4年1月)、20年目の調査を行いましたので、その際に感じたこと等をレポートします。
小笠原での調査では、本土で当たり前のように目にするスギやヒノキ、カラスやスズメは全く見ることがなく、代わりにタコノキ(写真3)やオガサワラビロウ(写真4)、ハハジマメグロ(写真5)やオガサワラハシナガウグイスなどの固有種(亜種)を目にすることが多く、独自の生態系を実感できました。驚いたことに、あちこちを飛び回っているハハジマメグロは母島列島にしか分布しない小鳥で、絶滅危惧種かつ特別天然記念物とのことです。さらに、アカガシラカラスバト(写真6)という絶滅危惧種にも出会うことができました。一時はほとんど姿を見ることがなくなったものの、精力的な保護活動により、頻繁にみられるようになったとのことです。
私たちが遺伝資源の保存に取り組んでいる森においても、巻き枯らしや伐倒によりアカギの駆除に取り組んできましたが、アカギの繁殖力は非常に強いため、切株や周囲の地面から新たな芽を出してくるものもあります(写真7)。アカギに侵略された桑ノ木山ですが、オガサワラグワの大木もわずかに残っていました(写真8)。力強い生命力に感動しました。保存した樹木も負けることなく成長するよう、保育管理を継続していくことが重要だと感じました。
小笠原には、外来種の大木が、まるでずっと前からそこにあるように生い茂っています(写真9)。森に入るとさらに多くの外来種が我が物顔に生息していました。外来種の侵入は樹木だけでなく動物でも問題となっています。農作物を食い荒らすネズミを退治するために導入されたノネコは、ハハジマメグロやアカガシラカラスバトを食べてしまうため、島内にはノネコを捕獲するための罠が多く仕掛けられていました。小笠原は陸産貝類(カタツムリ)の独自の進化がとくに有名で、100種近くの固有種が生息しますが、その外来種対策はさらに徹底しています。貝食性のプラナリアなどの小さな生物を持ち込まないよう、乗船前には必ず靴の土を落とし消毒液を通過し、入林前にはより徹底して土を落とし、酢で消毒、さらに粘着テープで衣服への付着物を除去する必要があります。島民の方は「このまま小笠原の自然が失われるのはいたたまれない」と話しており、小笠原の固有種を保存していく意義をより一層感じることができました。
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1 桑ノ木山に広がるアカギ林 | 2 生育状況の調査 | 3 タコノキ |
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4 オガサワラビロウ | 5 ハハジマメグロ | 6 アカガシラカラスバト |
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7 駆除後に芽を出すアカギ | 8 桑ノ木山に残るオガサワラグワの巨木 | 9 ずっと前からそこにあるような外来種 |
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10 移動中の船から見えたザトウクジラ |
(遺伝資源部 探索収集課)
外来種の侵入に立ち向かう~母島で小笠原諸島固有の樹木を保存しています~(PDF:1,559KB)
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