更新日:2017年8月29日

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天然記念物及び巨樹・名木の後継樹育成に向けた新たな挑戦!!

佐藤亜樹彦
森林総合研究所林木育種センター東北育種場

 

1.はじめに

森林総合研究所林木育種センターでは林木ジーンバンク事業の一環として、天然記念物及び巨樹・名木等の林木遺伝資源(以下 天然記念物等)の収集・増殖・保存(以下 収集等)を行うとともに、天然記念物等の所有者等の要請により後継樹(クローン)を里帰りする林木遺伝子銀行110番サービス(以下 110番)を行っています。

天然記念物等の収集等に当っては、天然記念物等の状態の情報が極めて重要になりますが、担当エリアが広域のため(青森、岩手、宮城、秋田、山形、新潟)、必ずしも情報を十分に把握しきれず、枯死に至るケースや枯死寸前の状態または倒壊後の収集(採穂)を余儀なくされ、結果として後継樹の保存・里帰りが果たせないケースもあったため、実際に各地域で樹木の治療や保全を行っている樹木医との連携を図り、緊急性を考慮しながら、天然記念物等の治療等と平行し、後継樹を育成する新たな挑戦に取り組みましたので、その取り組みを紹介します。

 

2.取り組み

①「柏葉公園のモミ」(青森県七戸町)

国指定史跡「七戸城跡地内」の公園のシンボル的存在であるが、樹幹内部の空洞化などにより、倒壊の危険性があったため、釜淵一知氏(4-①)が現況樹形を維持した風倒防止と樹勢回復に当たっていたが、想像以上に内部の空洞化が進行していたため、釜淵氏から七戸町に110番制度を紹介頂くとともに当場にも情報提供があった。その後、同町から110番の要請があり、平成23年3月に収集・増殖を行い、現在後継樹を育成中である。
また、同公園内にある「柏葉公園の大グリ」は、平成19年に七戸栗の木再生の会より110番の要請を受け、後継樹が平成21年4月23日に同町に里帰りを果たし、町内の小学校や中学校などに植栽された。

 

柏葉公園のモミ 採穂の様子 つぎ木養苗中
柏葉公園のモミ 採穂の様子 つぎ木養苗中

  


②「田村神社のスギ、カツラ【滝沢村指定天然記念物】」(岩手県滝沢村)

岩手県滝沢村の田村神社の境内にあり、スギは樹高29m、幹回り7mで推定樹齢1,200年であり村内では最大の老樹である。カツラは樹高18m、幹回り6mで推定樹齢500年であり、村内のカツラでは最大の老樹であるが、両木とも樹幹内部の空洞化や腐食などにより枯損や倒壊の危険性があったため、小岩井農牧株式会社が両木の治療・保全及び樹幹腐朽被害診断に当たるとの情報を同社の斉藤友彦氏(4-②)より頂き、樹木への影響を考慮し剪定を行う際に合わせて、採穂を行うことを計画し、滝沢村の了解を得て、平成22年12月に収集を行い、スギは同月に増殖、カツラは穂を冷蔵保存し、翌23年4月に増殖を行い、現在後継樹を育成中である。
また、同村内の角掛神社にある村指定天然記念物の「五竜のフジ」は、平成16年に同村より110番の要請を受け、平成18年4月20日、翌19年4月20日に同村に里帰りを果たし、村内の埋蔵文化センターに植栽された。

 

田村神社のスギ 田村神社のカツラ
田村神社のスギ 田村神社のカツラ

 


③「中島の松」(新潟県新発田市)

新潟県指定有形文化財及び国の名勝である五十公野御茶屋の庭園のシンボルであり、樹高3.5m、幹回り1.8mほどであるが、樹冠幅は16m以上の名木である。
しかしながら、周辺地域のマツノザイセンチュウ病の発生等により、枯損の危険性が高まったことから、新潟県の要請により、佐藤賢一氏(4-③)が治療・樹勢回復に当たっていたが、樹幹注入の後遺症というべき樹幹部の溝状の腐朽が見られたため、佐藤氏から新発田市に110番制度を紹介頂くとともに当場にも情報提供があった。その後、同市から110番の要請があり、平成20年3月に収集・増殖を行い、現在は後継樹の育成が終わり、今春の里帰りを待つところである。

 

中島の松 つぎ木の様子 里帰りを待つ後継樹
中島の松 つぎ木の様子 里帰りを待つ後継樹

 

また、平成23年7月に発生した新潟豪雨の影響で、新潟県十日町市(旧 松之山町)にある新潟県指定天然記念物の「中尾の大杉」(樹高27m、幹回り10m、推定樹齢1,000年)が同年8月2日に土砂とともに倒壊した。大杉のあった中尾集落では信仰の対象であったことから、後継樹の育成を模索した際に佐藤氏から同市に110番制度を紹介頂くとともに、当場にも迅速な情報提供を頂いたため、新潟県森林研究所とも連携を図りながら、後継樹の増殖、育成に取り組んでいるところである。

 

倒壊した中尾の大杉
倒壊した中尾の大杉

 

 

3.おわりに

今回は樹木医との連携という新たな挑戦にスポットを当てましたが、以前より天然記念物等の収集等に当たっては各県並びに各市町村等との連携、情報提供があり、取り組めましたことに感謝いたします。
また、新たな挑戦に賛同頂き、連携、情報提供頂いた樹木医の方々に感謝いたします。
樹木医との連携はまだスタートしたばかりですので、今後もより多くの情報把握に努め、各県並びに各市町村等、そして樹木医との連携・情報共有を図り、官民一体となり、貴重な遺伝資源である天然記念物等の生命を未来に繋げるために尽力する所存です。

 

 4.ご協力いただいた樹木医

① 釜淵一知樹木医
平成15年11月に樹木医登録
釜淵造園建設(株)(青森県田子町)会長
樹木に傷を付けず、登り、枝を切る「吊し伐り」(つるしぎり)を考案。
また近年は絶滅危惧種のクロビイタヤ、ハナヒョウタンボクの増殖にも取り組んでいる。

② 斉藤友彦樹木医
平成13年11月に樹木医登録
小岩井農牧(株)(岩手県雫石町)環境緑化部課長
近年は盛岡市内の国指定天然記念物の樹勢診断や岩手公園エドヒガンの樹勢回復等に取り組んでいる。

③ 佐藤賢一樹木医
平成4年11月に樹木医登録
(株)佐藤樹木医事務所(新潟県五泉市)代表取締役
現在は日本樹木医会 新潟支部長
以前より新潟県内の国及び県指定天然記念物等の樹勢診断や樹勢回復等に取り組んでいる。

 


 

お問い合わせ

所属課室:森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部  担当者名:保存評価課

〒319-1301 茨城県日立市十王町伊師3809-1

電話番号:0294-39-7012

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