更新日:2017年8月29日

ここから本文です。

コウヨウザンのそもそもと研究の現状

近藤禎二
国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部

1.はじめに

 わが国の西南地域では、横架材に適した強度を持っている木材を外材に一部依存している状況にあります。そこで、私たちは、成長、材質に優れた新たな樹種として、コウヨウザンの可能性を探るために国内のコウヨウザンについて研究をスタートしました1)。この研究は、農林水産技術会議の農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業に「西南日本に適した木材強度の高い新たな造林用樹種・系統の選定及び改良指針の策定」という課題名で採択され、平成27年度から3年間の計画で実施しています。

 コウヨウザンは、中国・台湾原産のヒノキ科コウヨウザン属の常緑針葉樹で、中国では中南部における最重要造林樹種の一つです。わが国には寺社を中心に江戸時代以前にも導入され、単木でなく林としての植栽は、県の県有林や植物園、大学の演習林や植物園、国有林にみられます2)。コウヨウザンはわが国では馴染みのない木ですが、中国では建築材などに広く利用されています。その貴重な痕跡が長崎市にあります。長崎市にある国の重要文化財の旧唐人屋敷門は、江戸時代に建てられ、長崎県のホームページ3)によると、「使用木材は,中国特産の杉木、和名コウヨウザン(広葉杉)であると、東京大学で鑑定された。建築様式や細部手法も明らかに中国独特のもので、中国人工匠の手になる。中国の材料による、純粋な中国建築が、仏寺以外の住宅に遺存している、極めて貴重なものである。」とされています。大工さんと材木をわざわざ本国から持ち込んで建てたわけですから、当時から中国ではコウヨウザンが建築材として広く使われていたことが想像されます。

2.中国でのコウヨウザン

 中国では4)、コウヨウザンの面積が生産的プランテーション林で665万ha、生産的半自然林で875万ha、両者を合わせると1500万haを超え、他の樹種を大きく引き離して最大の面積を占め、林齢10~20年生の林が50%を超えています。用途については、伐期20年のものは、合板、住宅の支柱、モップの柄等に、伐期30年のものは、内装、家具等に、大径材は優れた材として利用されています。中国の普通木構造用木材の針葉樹木材適用強度等級では5)、コウヨウザンは、シベリアトウヒ、SPF樹種群と同じグループに、早生コウヨウザンは、早生馬尾松、ラジアータマツと同じグループに属しており、建築材等の強度が必要とされる場面で広く利用されています。福建省でのコウヨウザンの木材価格6)は、4m材、末口直径が24cmのもので1,100元/m3であり、同地域の馬尾松が、ほぼ同じサイズで570元/m3であるのに比べて高値で取引されています。現在の為替レートでは、1元が約15円強ですので、コウヨウザンの材価は結構高い値段で取引されています。

3.コウヨウザン研究の現状

 国内にコウヨウザンの林がどこにあるのか、これまではあまり知られていませんでした。そこで、その場所探しから研究が始まりました。その結果、全国で12箇所あることがこれまでにわかり、大部分の林の踏査を行いました。その結果、どこも成林しており、成長も周りのスギやヒノキに比べて優れているようでした。また、天然更新や風による被害もほとんど見られず、むやみに広がったり、風で折れたりすることはないように見えました。現在、詳しい調査を行っていますので、順次正確な情報を出していきます。写真1は、林木育種センター構内に植栽されているコウヨウザンです。21年生で平均樹高17.0m、平均胸高直径25.3cm、林分材積423m3/haで、この地域のスギ1等地と比べて倍以上の成長を示しています7)。写真2は、広島県庄原市の約50年生のすばらしい林です。平均樹高20.2m、平均胸高直径26.5cm、林分材積1006m3/haで、ここでも、この地域のスギ1等地と比べて倍以上の成長を示しています8)。写真の中に写っている人と木を比べてみて下さい。これぐらい大きくなると樹皮もスギと大きく違いがなく、太さからいうとスギの80年生くらいの美林にいる感じです。このように、これまでの調査でコウヨウザンは成長が優れていることが明らかとなってきました。

 また、材質について、林木育種センターの立木で応力波伝搬速度を測定し、スギ、ヒノキと比較したところ、ヒノキに近い強度を示しました9)。木材としての性能については、この研究の中で、わが国を代表する木材会社である中国木材株式会社がコウヨウザンから製品を試作し、それを木材試験の高度な技術を保有している広島県林業技術センターで性能評価する段取りになっており、実用的、実際的な評価を得ることができる仕組みになっています。昨年度は広島県庄原市の材料で製品を試作し、性能を評価しましたが、なかなか良い結果が得られています。詳しい結果については学会などで報告していく予定です。写真3はその時試作したラミナで、光沢があり、優しい色合いです。

 植栽の適地については、これまでに確認した国内226件の所在地が、北は宮城県、新潟県から南は九州まで広くあり、その後の情報では、北は青森県や岩手県まで単木的な植栽がみられています。植栽地の環境を解析したところ、コウヨウザンの適地は照葉樹林帯であり、年平均気温12℃以上、暖かさの指数90℃・月以上、寒さの指数-15℃・月以上の地域が植栽可能地域と考えられました2)。なお、年降水量は1000~3000mmの範囲で植栽されており、わが国では制限要因になっていないと考えられました。

 苗木作りも今後の課題です。この研究の中で、種子生産技術、着花促進技術、さし木等の無性繁殖技術の開発に着手しています。これまでのところ、種子での増殖は問題なさそうですが、着花促進はなかなか難しそうです。さし木試験での発根率は高かったのですが、穂木の状態によって枝性が残ることが明らかとなり、その解消に向けて試験を行っているところです10)

 国内のコウヨウザン林の遺伝的多様性について、DNAマーカーを使った研究はありません。そこで、これまでに報告されているDNAマーカーを精査し、解析に十分な数の27マーカーを準備し解析を進めています。これまでのDNA分析では、林木育種センターと広島県の林では遺伝的組成に違いがあることが明らかになりました11)。また、広島の林のこれまでの施業履歴がほとんど不明だったのですが、DNA解析の結果、さし木苗が多く使われていたことが明らかとなりました。このことから、さし木が実用的であることが示され、私たちのさし木技術開発に拍車がかかりました。コウヨウザン林は各地にありますが、その由来については不明のものがほとんどです。今後、DNAを使った解析を進めることで、それぞれの地域に植えられている木の歴史が明らかになると期待しています。

2016no.1-1

写真1.林木育種センターのコウヨウザン

2016no.1-2

写真2.広島県庄原市のコウヨウザン

2016no.1-3

写真3.コウヨウザンのラミナの試作品

4.おわりに

 コウヨウザンの国内での研究が非常に少ない中で研究をスタートしましたが、わずか1年半でコウヨウザンが西南日本の造林樹種として大きな可能性があることが分かってきました。当初は所在地情報収集に力を注ぎましたが、まだ完全ではありません。林木遺伝資源連絡会はこのような情報のやりとりをする格好の組織です。会員のみなさまにコウヨウザンについての情報がありましたらご提供をお願い致します。

引用文献

1) 生方正俊、近藤禎二、山田浩雄、磯田圭哉、木村恵、遠藤圭太、大塚次郎、木下敏、塙栄一、飯田啓達、飯野貴美子、安部波夫、久保田正裕、倉本哲嗣、藤澤義武、鵜川信、涌嶋智、渡辺靖崇、松岡秀尚(2015)早生樹種コウヨウザンの品種改良に向けて.第4回森林遺伝育種学会大会講演要旨集 29

2) 山田浩雄・安部波夫・塙栄一・大塚次郎・磯田圭哉・生方正俊(2016)コウヨウザンの所在地データベースの作成.第127回日本森林学会大会学術講演集 142pp

3) 長崎県(2016)旧唐人屋敷門、長崎県の文化財

http://www.pref.nagasaki.jp/bunkadb/index.php/view/169

4) 立花 敏(2009)中国江西省における人工林の展開-コウヨウザンとスラッシュマツを中心に-.木材情報 11月号 10-13

5) 日本木材輸出振興協議会(2010)中国の基準とニーズに対応した国産材輸出仕様の開発-国産木造軸組部材の輸出仕様の開発に向けて- 73pp

6) 竹ノ下純一郎(1995)中国福建省の林業事情.熱帯林業 32: 2-12

7) 近藤禎二・山田浩雄・磯田圭哉・大塚次郎・飯田啓達・飯野貴美子・木下敏・生方正俊・藤澤義武(2015)茨城県における21年生コウヨウザンの成長.関東森林研究 67: 113-116

8) 近藤禎二・山田浩雄・磯田圭哉・大塚次郎・飯田啓達・飯野貴美子・木下敏・生方正俊・久保田正裕・三浦真弘・藤澤義武(2016)広島県におけるコウヨウザンの成長.第127回日本森林学会大会学術講演集 209pp

9) 藤澤義武・佐藤新一・山田浩雄・近藤禎二(2015)北関東で成育する19年生コウヨウザンの木材性質とその家系間変異.関東森林研究 66: 183-186

10) 大塚次郎・近藤禎二・飯田啓達・飯野貴美子・磯田圭哉・山田浩雄・木下敏・生方正俊(2015)コウヨウザンのさし木発根性および苗木の枝性について.関東森林研究 67: 145-148

11) 磯田圭哉・上野真義 ・久保田正裕 ・三浦真弘 ・倉本哲嗣 ・倉原雄二 ・竹田宜明 ・大塚次郎 ・飯野貴美子 ・飯田啓達 ・近藤禎二 ・山田浩雄 ・生方正俊(2016)国内コウヨウザン人工林における遺伝的多様性の解明.第127回日本森林学会大会学術講演集 137pp


お問い合わせ

所属課室:森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部

〒319-1301 茨城県日立市十王町伊師3809-1

電話番号:0294-39-7012

FAX番号:0294-39-7352

Email:idensigen@ffpri.affrc.go.jp