カシの実生は外生菌根菌に感染するとよく育つのか?
近年、スギやヒノキを伐採した後に木を植栽されずに放棄され、荒れ地と化した地域が存在します。このような造林放棄地では、樹木の植栽において、スギやヒノキではなく元々の郷土樹種である照葉樹を植栽し、復元しようとする活動が盛んになっています。常緑性のカシ類は、九州の暖温帯常緑広葉樹林における主要な樹種であり、根には外生菌根菌と呼ばれるキノコと共生関係を結んでいます。外生菌根菌はリンや窒素などの養分や水分の吸収を促進する働きがあり、樹木は貧栄養環境でも良好に成長ができます。そこで、造林放棄地における植栽技術して外生菌根菌の接種技術を確立するために、カシ類実生における外生菌根菌の接種試験を行い、成長促進効果と養分の吸収促進効果を調べました。
本実験は、森林総合研究所九州支所内に設けられた、自然光型ファイトトロン内 (温度・湿度制御可能な温室) で行いました。本研究では、アカガシ・ウラジロガシ (宮崎県東諸県郡綾町産)、アラカシ (熊本市立田山実験林産) の計3樹種を対象としました。実験に用いた土壌は、造林放棄地に近接したスギ林下の養分の多く含まれる土壌と、造林放棄地内の養分の乏しい裸地土壌の2種類を滅菌しました。実生の移植後に、九州支所内の樹木園で採取したヤマドリタケモドキの胞子懸濁液を接種しました。
3樹種ともスギ林の菌根菌接種個体で大きく成長し、特にアラカシは他の樹種より3倍も重くなりました。一方、裸地土壌の個体の総乾重量は、ウラジロガシの菌根菌接種個体で有意に重くなりましたが、他の樹種では有意に重くはなりませんでした。器官別で検討すると、特に葉の乾重量ではスギ林の菌根菌接種個体で有意に重くなりました。一方、菌根菌の非接種個体では、育成させた半年の間に多くの葉が落葉していました。
カシ実生の根に共生した外生菌根菌の感染率は、アカガシ・ウラジロガシのスギ林土壌の個体で約60%、裸地土壌の個体で約40%を示し、スギ林土壌の個体において高かったです。一方、アラカシではスギ林土壌の個体で約75%、裸地土壌の個体で約15%を示し、両土壌間の感染率の差が大きかったです。また、光合成速度や光合成と密接に関わる葉内の窒素やリンの濃度は、スギ林土壌の菌根菌接種個体で各樹種とも高かったです。
本実験結果から、スギ林土壌においては外生菌根菌の顕著な成長促進効果を確認しました。各樹種とも外生菌根菌の感染率が高かったことから、窒素やリン等の養分の吸収が菌根菌の働きによって促進されたと考えられます。光合成速度は葉内の窒素やリン濃度が高いほど高い速度を示すことから、窒素やリン濃度が高いことによって光合成速度も増加させ、樹木の成長を促進させたと推察されます。一方、裸地土壌では、スギ林土壌と比較して外生菌根菌の顕著な成長促進効果は確認できませんでしたが、ウラジロガシでは葉の乾重量と葉内窒素濃度が高く、成長促進効果が確認されました。裸地土壌がスギ林土壌と比較して成長促進効果が小さかった原因として、外生菌根菌の感染率がスギ林土壌よりも低かったことが挙げられます。低い感染率を示した原因としては、裸地土壌のpHが低いことから、酸性土壌に対して外生菌根菌が順応できていないことも可能性の一つとして推察されました。今後は外生菌根菌の接種源を変えて、裸地土壌でも成長促進効果のある外生菌根菌を検討していく予定です。

サンプリング時における異なる土壌に外生菌根菌を接種したカシ実生の写真
(上からアカガシ、ウラジロガシ、アラカシ。左から裸地非接種、裸地接種、スギ林非接種、スギ林接種。)
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