楠木 学,陳野好之,小林享夫,薬袋次郎,林 弘子,緑川卓爾,岩田善三
浅川実験林のサクラ保存林で,昭和48年頃から,新梢や幼果が 褐変枯死する病気が認められ,昭和50年頃には保存林全体にこの病害が拡大蔓延した。この病害 について病原の究明,発生生態の調査を行い,さらに薬剤防除について検討した。光顕観察,接種 試験から本病はMonilinia kusanoiによるサクラ幼果菌核病と同定された。本病は3月下旬〜4月上旬 に発生し始め,病原菌の分生子は褐変枯死した幼梢や幼果上で7月下旬頃まで認められたが,その 後は消失した。地上に落下越冬した病巣からは,本病の発生初期より約1週間早く子のう盤の発生が 始まることから,本病の病原菌は分生子や菌糸の形で越冬するのではなく,病果中に形成された菌 核で越冬し,そこから発生した子のう胞子が第一次伝染源になるものと考えられた。子のう胞子は発 芽管型と小型分生子出芽型の2通りの発芽型を示し,感染発病には発芽管型の発芽が必須であり, pH4〜5が本菌の発芽に好適と考えられた。サクラ類の柱頭はpH5.2〜5.4を示し,好適なpH値に近か った,このことは発芽経過の電顕観察結果とも一致し,接種後子のう胞子は柱頭では速やかに発芽 し,菌糸への発達が認められたのに対し,花柱や葉の表面では小型分生子出芽型の発芽が多く,ま れに発芽管型の発芽が認められても発芽管長は著しく短かった。しかし接種試験の結果では,子の う胞子は幼梢や若葉にも直接感染し,その後は分生子で次々と感染を続けるものと考えられた。本 病の感染時期が明らかになったことから,春先から発病期にかけて数種の殺菌剤を数回散布し,防 除を試みた。このうちチオファネート系のベンレート2,000〜3,000倍,トップジンM1,500倍液が卓効を 示した。
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