戦後のアメリカ林業,林産業の構造変化とわが国への影響に関する研究 第2報

−輸出市場拡大戦略の展開と市場支配力の強化−

加藤 隆

   要旨

 1970年代中葉以降,アメリカの大手本材企 業は,今後の長期的な利潤獲得の機会を求め,本格的に海外市場進出を図り始め ている。前報では,このような動きの背後にある同国の林業,林産業のマクロ的 構造変化の特質を明らかにした。本報においては,構造変化に伴う輸出拡大戦略 の展開が,わが国の木材市場に与えると椎察される影響について,対日輸出丸大 の価格競争力と産地市場構造の分析に基づいて検討した。
 アメリカからの日本向け輸出丸太は,わが国の木材市場で強い価格競争力を有 しているが,その基本的要因は,立木原価,素材生産費,造林費などの生産コス トがきわめて低い水準で維持されてきていることによる。こうした生産コストの 大きな部分を占めているのは労賃であり,大幅な賃金上昇がないかぎり競争力が 低下することはないと考えられる。
 一方,日本向け輸出丸太は,その大部分が大手本材企業によって生産され日本 商社に販売されるが,その市場構造は,1970〜80年代を通じて生産の集中化が急 速に進み,売り手部分寡占体制へと大きく変化してきている。そして,それとと もに輸出丸太の価格形成における大手企業の支配力が強まり,国内向けと輸出向 けの価格差別がいっそう顕著なものとなってきている。
 今後,輸出市場拡大戦略の一環として,アメリカ大手木材企業の日本市場での マーケッティング活動がいっそう強化されていった場合,低廉な生産コストと圧 倒的な市場支配カから判断して,わが国の木材市場は,米材のシェアー拡大と輸 出価格のコントロールを通じて,より安定した利潤獲得の場へと改変されていく 可能性上が強いと考えられる。

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   −林業試験場研究報告−(現森林総合研究所)
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