スギの幼形葉形質の遺伝

菊池秀夫

要旨

 スギについて各種の表現形質に特徴を備えた個体の収集を行ってきた。その中に針葉が幼形葉(初生葉)のみで,本葉(いわゆる針葉)が生じない変異個体があった。静岡県と鹿児島県の異なる地域から出現した幼形葉形質を示すCr-49とCr-312の2クローンを用いて遺伝実験を行い,F家系及びF家系を育成し,それらの家系における表現型の分離を調べた。親の交配では幼形葉型と正常型の正逆交配を行った。得られたF家系では幼形葉苗の出現は認められず,すべての個体が正常苗であった。次いで,F家系の個体を用いて,自家受粉,検定交配並びに兄妹交配などを行った。その結果,F個体の自家受粉家系からは正常苗と幼形葉苗が3:1の割合で分離し,F個体と幼形葉型との検定交配家系から正常苗:幼形葉苗が1:1の割合で分離した。F個体間の兄妹交配家系からは正常苗:幼形葉苗が3:1の割合で分離した。このことから幼形葉形質はメンデルの法則に従う単一劣性遺伝子の支配を受け,劣性ホモ接合体のときに発現することが明らかになった。さらに,産地の異なるCr-49とCr-312の幼形葉遺伝子の対立性を検定し,両者が同じ遺伝子であることを明らかにした。

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−森林総合研究所研究報告−
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