研究紹介 > イベント > 【QandA掲載】講演会「人の生活圏で発生するナラ枯れ被害に対する取り組み」 > 講演会「人の生活圏で発生するナラ枯れ被害に対する取り組み」QandA
更新日:2024年2月8日
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Q1 講演会の資料の配布や、録画ファイルの公開はありませんか?
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資料の配布については、予定はないことをご了解いただければ幸いです。動画配信については、現時点では未定となっております。
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Q2 ナラ枯れに対する考え方として、「枯れると人間都合で不都合なことや危険はあるが(公園・インフラ沿い等)、生態系的には大きな問題はなく(更新に長時間を要する場合もあるが)、むしろ薬剤を使うと生態系には悪影響になってしまう可能性もときにある。」という理解は正しいでしょうか。それともナラ枯れは生態的に問題があるのでしょうか。
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ナラ枯れに限らず、害虫とは「人間および人間の管理下にある有用な動植物に直接または間接的な外作用を及ぼす昆虫、ダニ類を含む生物(昆虫学大辞典)」と定義されているとおり、人間の都合によるものです。近年では外来種のように生態系に影響を与える種も、害虫とされるようになってきました。このため、害虫防除は人間のため、あるいは生態系保護のために、人間が作業内容を決定して行うものと言えます。ナラ枯れの場合、森林等に急激な変化をもたらすという点では、生態的に何らかの影響があると考えられます。
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Q3 被害木の処理において、例えば住宅近くの森林にナラ枯れがあり、急傾斜地のケースで通常の伐倒駆除を行うことができず、自治体が虫の駆除のみ行った後に木が倒木し、住宅に被害あった場合、責任の所在は森林所有者でしょうか、自治体でしょうか。前提として通常の伐倒は不可で、特殊伐採では対応ができたケースかつ、森林所有者は自治体からナラ枯れ被害木があることを予め知らされているとします。
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法律相談の問題であるため、この場での回答は控えたいと思います。
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Q4 カシノナガキクイムシは海外からやってきたのでしょうか。また、成虫は何年生きて、産卵するのでしょうか。常緑樹を加害する個体と落葉樹を加害する個体で、食性や生態に違いがあるのでしょうか。サクラなど、ブナ科以外の樹種に穿孔することがあるでしょうか。
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カシノナガキクイムシは在来種と考えられており、江戸時代にもナラ枯れと推察される集団枯死が古文書の記述にあります。成虫のほとんどは、初夏に脱出して生立木に穿入後、オスメス一対で、幼虫の世話をしながら孔道の維持・管理を行います。親世代は新成虫が羽化脱出する翌春から夏くらいまで孔道内で生きていますが、複数年は産卵する能力はないと考えられています。カシノナガキクイムシは、常緑樹(シイ・カシ類)と落葉樹(ナラ類)が同所的に植栽されている都市域の公園ではどちらも加害することから、食性や生態の違いはないと思われます。ブナ科樹木以外にも多くの樹種への穿入を試み、サクラ類やシデ類もその対象になります。寄種とは異なる樹種に穿入した場合、樹木側の反応として排出される樹液に成虫が捉えられる例は多く観察されています。
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Q5 カシノナガキクイムシが音を出すということですが、他のキクイムシでも同様の現象が見られるでしょうか。また、カシノナガキクイムシ以外のヨシブエナガキクイムシなど、ナラ枯れ被害木に穿孔する他のキクイムシ類に関する資料があれば教えてください。さらに、カシノナガキクイムシの穿入孔から採集されるカシノナガキクイムシの幼虫と、その他天敵と思われる幼虫の見分け方を教えてください。
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キクイムシ類の発音はカシノナガキクイムシだけでなく、ナガキクイムシの仲間では一般に見られる行動です。ヨシブエナガキクイムシに限らず直接樹木の枯死に関与することが少ないキクイムシ類については、情報が少ない傾向にあります。資料としては、森林昆虫に関する書籍(「森林昆虫ー総論・各論ー」、養賢堂、1994;「原色日本甲虫図鑑IV」、保育社、2007など)があげられます。カシノナガキクイムシの坑道からは天敵と思われる複数種の昆虫が出てくることがあります。幼虫での同定は難しいですが、参考にカシノナガキクイムシの幼虫の写真を掲示いたします。
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Q6 放置された薪炭林がナラ枯れの発生の原因とも言われますが、そもそも被害が拡大したり、再発したりするのはなぜでしょうか。樹の大径化が原因であれば、例えば40年後の再発が予測できるのでしょうか。人が防除しなかった場合、ナラ枯れはどのようになっていくのでしょうか。ナラ類を萌芽更新することは、次のナラ枯れ発生の対策として有効でしょうか。
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カシノナガキクイムシは、基本的に太い木に穿孔する割合が高く、小径木に比べて大径木からの次世代数が多いことが知られています。このため、燃料革命によって利用されなくなったナラ類が日本各地で放置・大径化して、カシノナガキクイムシの繁殖に適するようになったことが、ナラ枯れ発生の説として有力です。防除を行わなくても、カシノナガキクイムシの繁殖に不適な植生になれば、ナラ枯れは終息すると考えられます。一方、ナラ枯れ跡地に残されたナラ類等小径木が大径化してきた場所で、カシノナガキクイムシが生息していれば、ナラ枯れが再発する可能性があります。これらのことから、被害発生予測にはカシノナガキクイムシのモニタリングも必要です。また、ナラ類を萌芽更新するだけでなく、大径化させずに利用し続けることが有効な対策になると言えます。
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Q7 樹木の枯死の原因は、カシノナガキクイムシが樹幹内に持ち込んだナラ菌による通水機能の低下と考えてよいでしょうか。カシノナガキクイムシは、いつ、どこでナラ菌を獲得、保持するのでしょうか。
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樹木の枯死の原因は、カシノナガキクイムシの大量穿入と、それに伴って樹幹内に持ち込まれたナラ菌による、ナラ類の通水機能の低下によるものです。カシノナガキクイムシの坑道周辺からナラ菌の菌糸が木部に伸長し、それを防御しようとする樹体内の反応により通水阻害が引き起こされます。通水停止が同時多発的に起こり、水が全面的に通らなくなることで、枯死します。カシノナガキクイムシは、次世代の成虫が羽化、脱出する際に、坑道内壁からナラ菌の胞子を体表に付着させ、保持すると考えられています。
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Q8 激害地のナラ枯れは、1年でどのくらいのスピードで広がるものなのでしょうか。また、都市域で発生しているカシノナガキクイムシはどこから来たのでしょうか。
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日本海側でナラ枯れが激害であった当時は、枯死被害は1年に7km程度の速さで拡大するという報告がありましたが、近年の関東地方平野部では、それより速いスピードで枯死木の拡大が見られています。関東地方平野部でカシノナガキクイムシ成虫がどのように動いているのかはわかりませんが、室内実験では25km以上飛翔する個体も認められています。
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Q9 北海道のナラ枯れ被害の状況を教えていただけるでしょうか。また、北海道、岩手、青森のミズナラ林は、気温上昇などで北上するカシナガによっていずれ消滅するのでしょうか?
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北海道では、2020年にカシノナガキクイムシが、2023年にはナラ枯れによる枯死木が発見されましたが、いずれも渡島半島の最南端となっています。岩手県や青森県では被害地が北上しており、今後の気温上昇によって北海道でも被害地の北上が懸念されますが、被害地の拡大を予測するための情報や技術は整っていません。気温上昇により被害地が拡大するのであれば、本州と同様に、ミズナラ林が消滅するのではなく、ミズナラが混ざった森林に推移する可能性が考えられます。
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Q10 カシノナガキクイムシの加害を受けても生存する穿入生存木は、ナラ枯れに対する抵抗性をもっているということでしょうか。
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カシノナガキクイムシに加害された樹の生死の分かれ目については、穿孔数と枯死との関係についてのデータは取られていますが、科学的に十分には解明されていません。このため、樹木のナラ枯れに対する抵抗性の有無についても不明です。
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Q11 穿入生存木でも加害から数年後に腐朽菌やナラ菌の繁殖により、枯死あるいは倒伏することがあるでしょうか
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穿入生存木でも、樹幹内には通水が阻害されている部位や腐朽している部位があったり、ナラタケ類などの病原菌に侵されたりすることで、被害年以降に枯死したり、倒伏したりすることがあります。一方、穿入生存木内に持ち込まれたナラ菌については、樹幹材部の防御反応によって菌糸伸張が材の変色域内に制限されることから、ナラ菌による経年的な影響はほとんどないと考えられます。
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Q12 防除法には、化学薬剤以外の方法や根株の処理方法などの知見があるのでしょうか。また、被害材を分割することで駆除できるというお話でしたが、そのメカニズムや分割の回数による効果について教えてください。
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ナラ枯れの防除方法としては、薬剤を用いたもの以外にも、樹幹への成虫の穿入を被覆などで物理的に防いだり、飛翔している成虫を捕殺したり、被害木を伐倒して被覆、割材、破砕したりする方法が開発されています。そのうち、被害木の根株についてもカシノナガキクイムシが穿孔して繁殖し、翌年成虫が脱出することが知られているので、燻蒸などの処置が必要です。被害木の樹幹部を分割することは、材の乾燥を促すだけでなく、カシノナガキクイムシの孔道を物理的に断ち切ることにより、孔道内の環境を変化させることによって、幼虫の生育を妨げる効果もあると考えています。カシノナガキクイムシの孔道を断ち切ることが重要なので、より細かく割材した方が駆除効果は高くなると考えられます。
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Q13 集合フェロモンを作って、それによる大量捕獲は出来ないのでしょうか。また、カシノナガキクイムシをつぶした体液が忌避剤になるというようなことはないでしょうか。
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カシノナガキクイムシの集合フェロモンは解明されており、化学合成された市販品もあります(サンケイ化学(株)カシナガコール、カシナガルアー)。しかし、この市販品だけで大量に成虫を捕獲することが困難であることが、明らかにされています。また、忌避剤に関しては、カシノナガキクイムシでは研究がすすんでいません。
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Q14 被害木のくん蒸剤による駆除では、生存木に対する使用は可能なのでしょうか。また、農薬を使用する場合、個人の所有木であれば農薬取締法の縛りを受けないのでしょうか。
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すべての農薬は、使用可能な農作物、病害虫等、および使用方法等が定められています。ナラ枯れ被害木のくん蒸剤の場合、伐倒木あるいは枯損木へ使用することとなっているため、生存木へ使用することはできません。個人の所有木への使用について改めて確認したところ、厳密には個人が使う場合でも法に抵触すると思われます。
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Q15 森林の更新において、ナラ枯れ跡地と伐採地との違いはあるでしょうか。更新阻害として、クズなどのつる類も該当するでしょうか。シカなどによる食害を防げば、植林により更新できるでしょうか。実生更新の際に、実生の間引きなどの処理が必要でしょうか。
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ナラ枯れによる枯死では株ごと枯れることが多いため、萌芽更新が期待できないといった相違点はありますが、基本的には通常の枯死や伐採と同様と考えて差し支えありません。クズが多い場所では、クズが繁茂して更新を阻害する可能性も考えられますので、注意が必要です。クズ以外でも、シダや大型草本・低木等が密生することによる更新阻害の可能性もあります。植林による更新も不可能ではありませんが、シカ対策のほか、場所に適した樹種の選定や下刈りなどの管理作業も想定する必要があります。実生の密度が高い場合でも、自然間引きにより成長の悪い個体から枯死していくため、いずれ密度は自然と低下していきます。したがって、特定の樹種を残したいとかいう希望がないのであれば、人為的に間引く必要はありません。
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Q16 ナラ枯れ被害材の、薪材としての価値は高いのでしょうか。また、炭にはできないのでしょうか。
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被害材を薪や炭として利用することは可能ですが、被害木の樹種、生死、カシノナガキクイムシの穿入数、伐倒時期、および腐朽の程度等によって、それらの質は変わってきます。
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Q17 ナラ枯れとカエンタケとの関係性について、教えてください。
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カエンタケはナラ枯れ発生初期ではほとんど見られませんが、枯死が林分全体に広がった時期から地域によっては発生します。ナラ枯れ発生地以外でもカエンタケの発生がみられることから、ナラ枯れやナラ菌とカエンタケが密接な関連にあるという訳ではなく、大量に広葉樹の枯死木が発生したことによる林内菌類相の大きな変化が重要ではないかと推察されます。
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ナラ枯れ講演会事務局
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