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研究情報 No.54 (Nov. 1999)

巻頭言

日本林業の動脈硬化に思う

経営研究室 野田英志

今年の「林業白書」は木材を軸とした循環型社会の構築を提起しています。すなわち、廃材のリサイクルも含めて木材を幅広く有効に使うこと、森林を健全に育てることを通して大気中の二酸化炭素を吸収固定し、「大気→森林→木材(リサイクルで繰り返し利用)→大気」という炭素の循環を作り、環境への負荷の少ない循環型社会の構築を提唱しています。この背景には地球温暖化などの深刻化する地球環境問題があり、これに対処するために環境と調和した循環型社会の構築が重要な課題として浮上してきたのです。「環境白書」(平成10年版)では、こうした循環型社会を構築するために、廃棄物リサイクルを担う産業(静脈産業)を確立し、モノの生産・流通・消費に関わる産業(動脈産業)と適切にリンクさせて、循環型の経済-産業システムを作ることが必要だと指摘しています。これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を基本とする一方通行型の経済社会システムの変革です。

「林業白書」が示す木材を軸とした循環型社会を構築しようとの考えは確かに正論であり、21世紀の林業理念たり得ます。しかし、現状の木材の生産・流通・消費に関わる動脈部分とリンクさせて、廃材リサイクルなどの静脈部分を創設すれば、即、実際に循環するシステムが構築できると考えるのは早計でしょう。というのも、今日、木材とくに国産材の生産・流通・消費の動脈部分においては問題が山積しており、動脈のパイプが年々弾力を失いかつ細くなるという、まさに動脈硬化の症状を呈しているからです。日本林業のこの動脈部分が健全に動かないまま、新たな静脈部分を継ぎ足しても、硬化縮小した動脈が回復するとは限らず、内実を伴わない形ばかりの循環型システムになってしまう可能性があります。新しい静脈部分にのみ目を奪われてはならないでしょう

ところで、日本林業の動脈硬化への処置はこれまで種々行われてきました。しかし多くは対処療法の域を出ず、短期的、局所的な効果はあっても、年々、より深刻な情況をもたらしてきたのが現実です。規制緩和やグローバルな市場競争が促進されている今日、硬化してしまった古い動脈に代わる、木材の生産・流通・消費に関わる新しい動脈産業を創り出す段階にあるのではないでしょうか。そしてこの動脈部分に適切にリンクした静脈部分がセットで用意されるべきだと思います。

こうした木材を軸とした循環型経済社会システムの設計には、自然科学・社会科学系の研究を動員した学際的研究が必要です。林学・林産学プロパー以外にも、例えばシステム工学などの工学系研究の参画も重要でしょう。概念的なモデル構築から一歩進めて、特定の流域を設定し圏域レベルでのモデル設計とその実証が望まれるところです。その際には、関係する企業や機関などの参画も必要です。新しいシステムを作る場合、持続可能性が担保されているかなどのチェックも必要になります。このため設計したシステムが時間的・空間的に、要素間の相互作用を経て、全体としてどのような動きを示すのかを定量的に把握する事が重要であり、こうした思考実験に適した手法の導入も必要です。研究の性格としては、問題対処型というより問題提起型の研究といえるでしょう。どなたか始めませんか。もう始めてますか。

研究紹介

森の風をはかる
-山城試験地のCO2観測-

防災研究室 深山貴文

風が森の上を吹く時、木々の葉はとても複雑に波打っています。これは、大小様々な渦(渦状の空気の塊)が上下左右に動き回り、大きさを変えながら流れていくためであると考えられています。これらの渦によってできる不規則な風の流れは乱流と呼ばれています。

実はこの乱流、森林の気象環境を維持するためには欠かせないものです。なぜなら、乱流は高い所の空気と低い所の空気を混ぜる働きを持ち、これによって例えば太陽によって熱せられた地上の熱を上空に運び、上空からは光合成に必要な二酸化炭素等を森に補給したりしているからなのです。

さて、この乱流をはかるにはどうしたらいいのでしょうか?わずかな時間に何度も変化する複雑な風を捉えるわけですから、風見鶏のような回転式風向風速計では応答速度が遅すぎ、思うようなデータを取ることができません。そこで、最近このような観測に使われているのが超音波風速計です(写真-1)。

これは超音波の発信・受信が可能なセンサーを2つ向き合わせ、両者を交互に発信、受信させることで超音波のドップラー効果からセンサー間の風速の変化を測定する器械で、1秒間に10回、または20回の頻度で風速を測定することができるものです。これを使って3次元方向で風速を測定すると複雑な風向、風速の変化を知ることができます。データを解析することで、どの大きさの渦が多いのかを知ることもできます。

超音波風速計の中には温度の変化によって音速が変わる性質を利用した超音波温度計の組み込まれているものもあります。これを使うと空気の温度と上下に吹く風の風速が同時に測定できることから、どれだけの熱が風によって森林と上空大気の間で交換されているのかが分かります。また、風速と同時に湿度を測定することで水蒸気の移動量を、二酸化炭素濃度を測定することで二酸化炭素の移動量を測定することができます。

現在私達は、森林総合研究所関西支所研究情報No.51でお知らせした二酸化炭素動態観測施設のタワーの頂上部でこの超音波風速計を使用しています。この施設は京都府相楽郡山城町の北谷水文試験地(通称:山城試験地)にあり、尾根部と谷部に各1本のタワーがります。この施設には二酸化炭素の濃度によって空気の赤外線吸収量が変化する性質を利用した二酸化炭素濃度変動計(写真-2)も設置されており、この超音波風速計と二酸化炭素濃度変動計を組み合わせて山城試験地における二酸化炭素の吸収・固定量を明らかにする研究を行っています。

山城試験地は尾根で囲まれた小流域の形をしており、10年以上も前から降水量と流域末端部から流出する水の流量を観測しているため、水収支が明らかになっています。このことは今後の解析にとって重要な手がかりになると考えられています。なぜなら、超音波風速計による乱流の長期観測には、測定値への多くの補正が必要とされているためです。例えば二酸化炭素の移動量の補正には、熱や水蒸気の移動量のデータが必要となります。太陽からのエネルギーの収支や、タワーの上部と下部の温湿度差等と共に水収支のデータを用いることで、より信頼性の高い結果を得ることができるかもしれません。

数多くの観測機器を全て順調に動かしていくのはなかなか難しいことですが、このような長期観測の例はとても少ないため、この機会を活かして山城試験地の炭素吸収・固定量を明らかにしていきたいと思います。

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写真-1超音波風速計
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写真-2二酸化炭素濃度変動計

 

頭骨標本を作る

鳥獣研究室 島田卓哉

動物を研究対象とする大学・研究所や自然史博物館には、たいていの場合動物の標本が所蔵されています。私の出身大学の教授室には、世界で3体しか現存しないというニホンオオカミの剥製が置いてありました。初めてその剥製を見たとき、絶滅したオオカミの歴史がそこに凝縮されていたようで畏怖感のようなものを感じましたが、一方でそのみすぼらしさにがっかりしたことを覚えています。

関西支所の標本展示室には、あわせて約30種類の哺乳類の剥製と頭骨標本が展示してあります。形を整えた剥製は展示物としては目を引きますが、研究上の価値はあまり高くありません。それに比べ頭骨標本は、捕獲場所等の情報が正確に残されていれば、非常に多くの情報を私達にもたらしてくれます。

哺乳類の体はおおよそ200個の骨で構成されていますが、そのうちの約30個は頭の骨(正確には頭蓋といいます)が占めています。このことからも、頭骨の持つ情報の豊富さが分るように思います。

哺乳類の分類体系は、主に頭骨と歯の形態に基づいて構成されています。歯が化石として残りやすいことがその大きな理由ですが、餌を取り食べるという動物にとって最も大切な機能を担っていることが、頭骨と歯の分類体系の基盤としての役割を確かなものにしています。

頭骨標本を作るのは、大きな動物よりも、ネズミなどの小動物の方がむずかしいです。私も作り初めの頃は、力をいれ過ぎたりして、何度も潰してしまいました。今回は、どのようにして美しい頭骨標本を作るのかを、簡単に紹介したいと思います。

必要な道具
ピンセット(先端に滑り止めのあるものの方が良い)、毛先のあまり固くない歯ブラシ、歯間ブラシ、スポイト

手順
1)首の部分から頭部を切断し、頭皮を剥ぐ。
2)10~15分程度熱湯で煮る。あまり煮すぎると頭骨が脆くなり壊れやすくなる。この頃合いが難しい。
3)頭骨に付着している筋肉をピンセットで丁寧に取り除く。こびりついて取れない肉片は、歯ブラシでこすり落す(壊さないように、軽く)。
4)頭と首との接合部にある穴(大後頭孔)から脳をかき出す。水を張ったたらいの中で、歯間ブラシを用いて脳を崩して掻き出す。スポイトを使い水と共に脳を吸い出してもよい。
5)鼻孔内の内容物も、歯間ブラシを使って掻き出す。きれいにしようとしすぎると、「角を矯めて牛を殺す」ことになるので、ほどほどにしておくのが大切です。
6)虫がつかないように乾かし、乾燥剤と一緒に収納する。

こうして出来たヒメネズミの頭骨標本が写真-1です。手にとってみると、何度見てもその精妙さに驚かされます。

頭骨標本は情報の宝庫です。歯の形や数、神経や筋肉の通る穴の位置、眼球の納まる位置などには、その動物の進化と適応の歴史が刻み込まれています。また、一般的に小哺乳類の齢を知るのは難しいことですが、歯の摩耗の程度から月齢の推定をすることも可能です。写真-2写真-3を見比べてください。いずれもヒメネズミの上顎臼歯の写真ですが、上の写真の方がすり減っているのがお分かりいただけると思います。

このような貴重な標本を、収蔵し管理することも、関西支所の地域センターとしての大切な責務の一つです。

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写真-1ヒメネズミの頭骨全体像
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写真-2ヒメネズミの上顎臼歯
(摩耗がかなり進んでいる)
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写真-3ヒメネズミの上顎臼歯
(摩耗がほとんど進んでいない)
注)写真は、いずれも左側が頚部(首)につながる向きになっている。
 

連載

ローテク測樹教室(1)
手ぶらで樹高をはかる

経営研究室 細田和男

レーザーや超音波を用いた測樹器、電子輪尺やGPS(人工衛星を利用した地理座標測定システム、カーナビゲーションもこの一種)など、測樹の世界にもさまざまハイテクが導入されつつあります。上空はるか数百キロからの衛星画像による森林資源量の推定などは、その最たるものでしょう。テクノロジーの発達にともなって森林調査が将来より正確に、より安価に行えるようになっていくことには疑いありません。

とはいえ、高価な電子機器もときには故障、油断すれば電池切れという笑えない事態に陥ることもあります。また、測樹器具を持ちあわせていないけれども、樹木のサイズや森林蓄積を大雑把に知りたいこともありましょう。この連載では、場所や条件に左右されず、簡単な道具と測定者の勘のみを必要とするローテク(Low-Tech)な測樹術を復習していきたいと思います。

初回のテーマは樹高の測定です。ローテクな樹高測定といえばやはり「目測」にかなうものはありますまい。長い測高ポールを持たずに目測をする場合、2メートルポールや同行者の身長などを比較基準にすることと思います。しかしこの際、例えば2メートルポールを樹木の根元に立てて、根元から梢端に向かって「2・4・6・8・・・nメートル」と数えていくのは誤差の大きい方法です。それよりも、樹木全体をじっくりと眺めまわし「樹高の1/2・1/4・1/8・1/16・・・1/n」の要領で適当な大きさまで順次2分割したうえで、分割後の長さを比較目測し、その値をn倍にして元の長さに戻すのがよいようです。これだけでも随分とましな目測ができるようになります。

さすがに目測では心許ないという向きは、30センチ定規(あるいは折尺やコンベックス)を一本ご用意下さい。イラストのように同行者を樹木の根元に立たせ、自分は定規を前方にかざして、樹木の見かけの全長が定規と一致するところまで離れます。定規はなるべく鉛直になるよう、上端(目盛りの大きいほう)を指でつまんで垂らすようにして下さい。同行者の身長をTメートル、その頭のてっぺんの目盛をLセンチとすると樹高は(30×T÷L)メートルになります。説明は省きますが原理は至って簡単で、相似三角形の性質を応用したものです。

同じ原理を用い、一定長の基準ポール(上でいう同行者の身長T)に合わせてあらかじめ目盛をつけ、樹高を直接読みとることができるようにしたのが「クリステン測高器」です。この測高器は大変シンプルな仕掛けながら、距離の測定を要しないのが特長で、基準ポールを長くすれば、なかなかよい精度を示すといわれています。

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おしらせ

近畿・中国ブロック会議および研究成果発表会開催される

10月14日京都市呉竹文化センターにおいて、平成11年度林業研究開発推進近畿・中国ブロック会議が、また翌15日には関西支所研究成果発表会が行われました。

ブロック会議には、林野庁・森林総研・近畿中国森林管理局・林木育種センター関西育種場および14の府県関係者が出席し、国側機関から試験研究・技術開発の動向が報告され、府県側からは最近の研究成果が紹介されました。

引き続いて「緊急に解決を要する研究課題」の検討が行われ、以下の3課題(課題名は仮称)が摘出されました。

  1. 野生獣類による森林被害の発生機構の解明と人間との共生に関する調査研究
  2. 簡易な処理方法による地域産針葉樹材への高耐久性の付与と外構部材の耐久性評価手法の確立に関する試験研究
  3. 里山林の健全性判定に関する調査研究