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林業試験場関西支場
今日までエネルギーの殆ど大部分を国外の化石資源で充当し、経済の発展と共に多量に消費してきた私共にとって、石油資源の有限性と高価格は今後の生活の上に覆い被さる暗雲と考えられ、急速に苦しい立場に追い込まれている。産油国の揺れ動く情勢に左右され一喜一憂を繰り返しながら、石油不足がますますひどくなることが予想される。この暗雲を吹き飛ばすには、一刻も早く利用できるエネルギー資源を総動員し、効率的に利用する以外残された道はない。私共の対象としている森林は、言うまでもなく太陽エネルギーを固定し貯蔵する能率のよい工場であり、これらの資源の利用を考えずにこの危機を乗り切れるとは思えない。例え木材の全生産量をエネルギーにおきかえても全需要量の10%前後で、家庭用のエネルギーを充足する程度であると言う試算例もあるが、間接的とは言え、数多くのエネルギー多投物資の再代替をも併せて考えれば、相当な量になると推定される。林業をめぐる諸情勢は厳しいものがあり、一時、日本経済が多少好転する兆しが認められたが、石油不足によるインフレ、物価高が再び不況に転ずる導火線になりかねない現状であり、この段階において、森林、林業についての国民のための技術研究を行っている私共は、その任務の重大さを充分に自覚して業務に専念している。私共の使命は森林の持つ価値を正確に捕え、原点に戻り、森林生産物の増大、水資源の確保、環境保全機能の増進等により、林業そのものを国民にとり必要であると言う妥当性のあるものにするための研究、換言すれば、適切な森林、林地の利用方法、価値高き森林の造成技術を確立することに集約されるものと思う。
ここに刊行する当支場の年報は昭和53年度に私共が行なった研究業務、ならびに支場の動きの概要等について極めて簡単に取りまとめたものであり、その成果は研究員の努力にもかかわらず未完成のものが多く、与えられた研究施設、研究予算を満度に活用しても、なお不充分な点もなくはないが、その一端を知って頂く上に重要な資料であると考えている。研究の課題、研究の進め方、成果などについての皆様方の忌憚のないご批判を頂きたいと願っている。研究は一朝一夕にできるものではなく、試験場職員のみで充分に目的を達成することは困難であり、長期にわたり協力して下さった多くの方がた、特に試験研究の場と素材を提供して下さった林業経営者、大学、府県庁、営林局署、林木育種場、その他の関係者に対し、この機会に厚く御礼を申し上げる。
昭和54年7月11日
林業試験場関西支場長細井守
一括版のpdfファイルはこちらです。(年報第20号)(昭和53年度)PDF:8,521KB)
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