ここから本文です。
左写真:調査のために捕獲されたコマドリLuscinia akahige 森林の下層植生が衰退した地域で減少している 右写真:平成23年台風12号により奈良県十津川村で発生した深層崩壊地
平成23(2011)年度には大きな災害がありました。3月11日の東日本大震災では、巨大地震とその直後の想定外の大津波によって甚大な被害を受け、さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故により広域の放射能汚染の被害を被りました。放射能汚染への対応では森林生態系内の汚染状況と除染効果、渓流水や木材内部の汚染度の調査、そして津波関係では海岸林の被害軽減効果の検証などが、緊急対応として森林総合研究所に求められました。9月上旬には、台風12号の影響で8月30日から降り始めた雨は西日本の広い範囲で記録的な大雨となり、特に紀伊半島では9月3日~4日にかけての集中豪雨によって各所で大規模に山腹が崩壊して土砂ダムを形成するなど、家屋の流出や人的被害とともに、森林にも大きな被害をもたらしました。
平成23(2011)年度は森林総合研究所の第3期中期計画の初年度であり、今期の関西支所の主要な研究課題は、「里山課題」と「林業課題」です。「里山課題」は、第2期の途中から開始した交付金プロジェクト「A2P03現代版里山維持システム構築のための実践的研究:H21~25」を中心としています。プロジェクトでは実施できない部分については、一般研究費による実行課題「G211里山地域における森林の総合管理のための機能評価:H23~25」で対応しています。「林業課題」では、実行課題「A122優良壮齢人工林へ誘導するための施業要件の解明と立地・社会環境要因の評価:H23~25」を開始しました。特に、近畿中国地方の木材生産現場における現況を把握するとともに地域の森林管理に対するニーズを幅広く吸収することにより、ヒノキ人工林の中期的な管理技術構築に向けた研究課題を設定することを目的として、交付金FSプロジェクト「近畿中国地域の人工林資源の賦存特性に基づいた持続的利用を目指した林業技術開発のための予備研究」を本年度のみの単年度で実施しました。
4月には、産学官連携に取り組むため、各支所の研究調整監が産学官連携推進調整監に振替えられました。平成22(2010)年度には、本所に産学官連携推進調整監と産学官連携推進室が、そして四国支所に産学官連携推進調整監が設置されていましたが、本年度からは全支所で産学官連携への取組を強化する体制となりました。第3期中期計画では、「産学官の連携・強化については、国、他の独立行政法人、都道府県、大学、民間企業等との連携・協力を進め、効率的な研究開発の実施及び成果の利活用の促進に努める。」としており、国有林野を活用した研究開発・森林管理局が行う技術開発への協力等による国有林野事業との連携強化、公立林業試験研究機関等に対する技術指導等による連携・協力関係の強化が明示されています。
国立大学法人三重大学との連携大学院の設置は関西支所の数年来の懸案でしたが、森林総合研究所理事長と三重大学学長との間で「教育研究に係る連携・協力に関する協定書」が4月1日に締結されました。関西支所では、生物資源学研究科長との間で協定に関する覚書を同日付けで取り交わしました。大学院入試の結果、自然環境システム学講座で自然共生学を学ぶ社会人1名が合格し、次年度から共生環境学専攻自然環境システム学講座で自然共生学の連携教育研究分野を開設することになりました。
JST(科学技術振興機構)サマーサイエンスキャンプを関西支所で開催するのは3年連続で3回目でした。全国的に被害が拡大している「ナラ枯れ」をテーマに、病原菌培養・被害木中のカシノナガキクイムシ調査等の実習とナラ枯れ感染木が枯れる仕組み等の講義による「ナラ枯れのメカニズムを探る-カシノナガキクイムシが運ぶナラ菌-」を実施しました。また、JSTが支援するSPP(サイエンスパートナーシップ:講座型学習活動支援)は、高校等が研究機関等の連携を受けて講座を実施する体験的・問題解決的な学習活動で、京都府立莵道高校の申請が採択され、関西支所が連携して11月に実施しました。森林生態系研究グループが主体となって、高校生25名を対象に、1回/週で3回の生態調査の講義・野外調査実習・データ取りまとめと成果発表の講義と実習、そして11月23日には支所見学で研究の現場を見てもらいました。
今年度の公開講演会は、森林を健全に管理するための手法を話題とした「むし・しか・かび 森林林業に被害を与える生きものたち」のテーマで、森林農地整備センター近畿北陸整備局と連携して、11月22日(木曜日)に龍谷大学アバンティ響都ホールで開催しました。
平成25年1月
森林総合研究所関西支所長 藤井智之
一括版のpdfファイルはこちらです。年報第53号(平成24年版)(PDF:2,659KB)
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.