森林総合研究所関西支所年報第64号
令和5年版
まえがき
新型コロナ感染症の流行は令和4年度にも続き、感染拡大の第7波、第8波が襲いました。しかし、総じて重症化率は低下し、感染期間も短くなってきたことから、「with コロナ」の時代へと移行しました。様々な制限は緩和され、令和5年3月にはマスク着用義務も解除されました。一方、コロナ禍ばかりでなく令和4年3月のロシアによるウクライナへの大規模侵攻開始の影響も受け、エネルギー代金など物価の高騰と物資の供給不足は社会経済に大きな影響を与えました。特に、「ウッドショック」と呼ばれる前年度から続く木材価格の高騰は林業・木材産業に少なからぬ影響を与えました。
私たちにとり、令和4年度は国立研究開発法人森林研究・整備機構の第5期中長期目標期間(令和3~7年度)の第2年度でした。当機構が同期間中に実施する中長期計画の中で設定した3つの重点課題研究のうち、関西支所では重点課題1「環境変動下での森林の多面的機能の発揮に向けた研究開発」または重点課題2「森林資源の活用による循環型社会の実現と山村振興に資する研究開発」の下に位置付けられる68課題に30名の常勤研究職員(令和5年3月現在、研究専門員・任期付研究員を含む)が取り組みました。それらのうち22課題は支所の研究職員が課題責任者を務めました。令和4年度から新たに「Measurement of the mycorrhizal hyphal turnover through soil imaging:Resolving the image analysis bottleneck with AI」、「線虫の生活様式多様化と種分化に関する統合的研究」、「微生物を含めた環境トレーサーで古生層山地小流域における斜面地下水動態を探る」、「竹林はどのように開花・枯死し回復するのか」、「劣化機構の解明を端緒とする地盤補強丸太減衰関数の提示」などの研究課題を開始しました。また、森林生態、降水と渓流水質、森林水文、森林気象、森林成長について、それぞれモニタリングを行う基盤課題も引き続き実施しています。
これら研究課題の推進、そして研究成果を地域へ還元するために、私たちにとり地域との連携は非常に大切です。関西支所は公開講演会をコロナ禍においても入場者数を制限して三つの密を避けながら開催してきました。令和4年度は「外来カミキリムシから花咲く春を護る」と題して、サクラやウメの木を枯らしてしまうクビアカツヤカミキリの生態や被害、防除方法についての研究成果を紹介しました。また、近畿中国森林管理局と共催した「林地保全に配慮した森林施業と再造林の着実な実施に関する現地検討会」でも、様々な研究成果を紹介しました。そして、地域との連携を強めるために、岐阜県飛騨市と関西支所の間で連携協定を締結しました。さらに、国有林及び森林整備センター職員との交流会、森の展示館での「森林教室」や、学生・研修生の受け入れなどを実施しました。その他、令和2、3年度にはコロナ禍のために中止ないしオンライン又は書面での開催となった多くの行事や会議を、徐々に対面形式で再開できました。
メディアを用いた広報普及活動としては、新たな研究成果を関西支所のホームページで紹介したり年4回の「研究情報」を刊行したりしました。関西支所独自のインターネット動画として、新たに「クビアカツヤカミキリの産卵を捉えた!!」、「雪やこんこ 雪の実験林を歩いてみた」を加えて、公開講演会の講演動画と共に、YouTube「森林総研チャンネル」にて公開しました。是非ご覧ください。
関西支所はこれからも、近畿中国地方における森林・林業・木材産業に関する問題の掘り起こしと解決に向けて、研究開発に取り組みます。そして、その成果を社会に還元するために、研究発表等の情報発信に加え、外部との研究協力や技術指導、広報活動などを通じて地域との連携を一層深めて参る所存です。関係する皆様には引き続きご支援ご協力をよろしくお願いいたします。
令和6年2月
森林総合研究所関西支所長 鷹尾 元
目次
- 1アa1 物質・エネルギーの動態モニタリングによる気候変動影響の評価と予測技術の開発
- 1アaPF7 大径木択伐から始まる熱帯林の土壌劣化パターンと植生回復の関係
- 1アaPF9 熱帯雨林生態系における水循環機構と植生のレジリエンスの相互作用の解明
- 1アaPF31 森林土壌の炭素蓄積量報告のための情報整備
- 1アaPF40 「真の渦集積法」が明らかにする森林群落スケールのVOC放出能とその環境応答特性
- 1アaPF41 気候変動がもたらす生態系攪乱が森林の炭素吸収量に与える影響の長期広域観測とリスクマップの構築
- 1アaPF44 Measurement of the mycorrhizal hyphal turnover through soil imaging:Resolving the image analysis bottleneck with AI
- 1アaPS2 マイナスエミッションに向けた土壌メタン吸収の広域算定手法の開発
- 1アb1 地域の環境条件に応じた多様な森林機能の活用
- 1アbPF10 林業を対象とした気候変動影響予測と適応策の評価
- 1アbPF12 森林技術国際展開支援事業
- 1イa1 生態系からみた森林の生物多様性に関する研究の高度化
- 1イaPF10 腸内細菌に由来する匂いは昆虫の社会を司るか?―アリを題材に―
- 1イaPF14 増えるシカと減るカモシカは何が違うのか?最適採餌理論からの検証
- 1イaPF16 森林昆虫の多様性研究の新展開:駆動力としての昆虫関連微生物の存在意義の検証
- 1イaPF26 沖縄島北部の森林で生じた渡らない生活史は鳥類にどんな地域固有性をもたらしたか?
- 1イaPF27 森林景観内の樹木の多様性規定要因を解明する
- 1イaPF34 土壌動物の腸内微生物叢から森林の物質循環を読み解く
- 1イaPF40 線虫の生活様式多様化と種分化に関する統合的研究
- 1イc1 森林の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する研究の高度化
- 1イcPF16 森林の生物多様性の分布形成機構の解明に基づく気候変動に適応的な保護区の提示
- 1イcPS2 林業収益と公益的機能のトレードオフ関係の全国解析―環境配慮型集約化の提案―
- 1イk1 長期観測試験地に基づいた森林動態のモニタリング
- 1ウa1 水循環・物質循環が関与する森林の機能の評価技術の開発
- 1ウaPF7 気候変動への適応に向けた森林の水循環機能の高度発揮のための観測網・予測手法の構築
- 1ウaPF17 森林内における放射性物質実態把握調査事業
- 1ウaPF23 微生物を含めた環境トレーサーで古生層山地小流域における斜面地下水動態を探る
- 1ウaPS2 放射能汚染地域の林業再生に関する技術開発
- 1ウaTF2 新型コロナウイルスによる経済活動の減速が森林域の大気汚染物質動態へ及ぼす影響評価
- 1ウb1 森林の山地・気象災害軽減技術の高度化
- 1ウbPF19 土層の生成から流出までの循環過程にもとづく新しい山地保全技術の開発
- 1ウk1 森林における降水と渓流水質のモニタリング
- 1ウk2 森林水文モニタリング
- 1ウk3 森林気象モニタリング
- 2アa1 造林・育林技術の実証とシーズ創出に向けた研究開発
- 2アaPF1 成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発
- 2アaPS2 広葉樹利用に向けた林分の資産価値および生産コストの評価
- 2アaPS3 適地適木植栽のための乾燥耐性評価に向けた小型苗のキャビテーション抵抗性の非破壊的測定法の確立
- 2アaPS5 竹林はどのように開花・枯死し回復するのか
- 2アaTF1 スギ・ヒノキの着花習性の解明および着花評価技術の開発
- 2アc1 持続的な林業経営および森林空間利用のための評価・計画・管理技術の開発
- 2アcPF12 管理優先度の高い森林の抽出と管理技術の開発
- 2アcPF14 消えつつある草原コモンズを再生するための管理形態と社会システムの提示
- 2アcPF15 令和4年度森林情報の高度化推進に向けた条件整備等に関する調査委託事業
- 2アcTF1 新たなリモートセンシング技術を用いた効率的な収穫調査と素材生産現場への活用方法の提案
- 2アd1 多様化する森林との関わりを支える社会経済的・政策的方策の提示
- 2アdPF1 森林管理制度の現代的展開と地域ガバナンスに関する比較研究
- 2アdPF3 アメリカにおける森林の多面的利用の制度的基盤の解明
- 2アdPF6 農山村地域における観光施設の遊休化が及ぼす地域社会への影響と観光イノベーション
- 2アdPF13 科学的林業の受容と変容に関する国際比較研究:現場森林官が持つ仕事観に着目して
- 2アdPF16 防災上管理優先度の高い路網判定技術の開発
- 2アdPS3 EBPM実現のための森林路網B/C評価ツールの開発と社会実装
- 2アk1 収穫試験地における森林成長データの収集
- 2イa1 樹木・林業病害の実効的制御技術の開発
- 2イa2 森林林業害虫の実効的防除技術の開発
- 2イa3 森林林業害獣の実効的防除技術の開発
- 2イaPF2 鳥獣害の軽減と農山村の活性維持を目的とする野生動物管理学と農村計画学との連携研究
- 2イaPF7 ヒバ漏脂病に対する個体と林分の抵抗性機構の解明
- 2イaPF13 線虫をもって線虫を制する―捕食性線虫を用いた新規マツ枯れ制御技術の開発
- 2イaPF23 スズメバチ女王を飼い殺す新たに発見された寄生バチ:その生態と系統
- 2イaPF44 ツヤハダゴマダラカミキリによる被害や防除方法等に関する調査事業
- 2イaPF46 相次いで侵入した外来カミキリムシから日本の果樹と樹木を守る総合対策手法の確立
- 2イbPF6 鉱山跡地の自生植物と土着微生物を利用した新しい緑化技術の構築
- 2ウb3 多様なニーズに対応した木質材料の耐久性向上・性能維持管理技術の高度化
- 2ウbPF16 劣化機構の解明を端緒とする地盤補強丸太減衰関数の提示
- 2エaPF24 木の酒の社会実装に向けた製造プロセスの開発と山村地域での事業条件の検討
- 基盤研究1ウk1:森林における降水と渓流水質のモニタリング
- 基盤研究1ウk2:森林水文モニタリング―竜ノ口山森林理水試験地における2022年の概要―
- 基盤研究2アk1:収穫試験地における森林成長データの収集
- 沿革
- 土地及び施設
- 組織
- 受託出張
- 職員研修
- 受託研修生受入
- 特別研究員
- 海外派遣・出張
- 業務遂行に必要な免許の取得・技能講習等の受講
- 森の展示館(標本展示・学習館)
- 会議
- その他の取組み
- 試験地一覧表