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令和3年6月2日
林木育種では優れた性能を持つ品種の開発や品種の性能の検証のために、苗木の特性を調査する試験地を設定します。これらの試験地では、遺伝的特性が異なる苗木を同時に植栽して、数年から数十年にわたって調査を行い、その性能を比較・評価します。そのため、植栽された各苗木の遺伝的系統情報と位置情報の正確な記録が重要です。通常、これらの試験地の設定時には横方向(行)と縦方向(列)に整列させた植栽位置に苗木を植え付け、行番号と列番号で各苗木の位置情報を管理しています。しかし、林地ではしばしば、尾根や谷、伐採時の作業道、切株、伐採木の枝条、岩等がみられるため、苗木を縦横に整列させた形で植栽することが難しい場合もあります。その場合、行番号と列番号による管理では各苗木の追跡が困難となり、試験地の管理や調査に不都合が生じることがあります。
そこで、苗木の植栽が縦横にきちんと植栽されていない場合にも、植栽した苗木を正しく管理できるよう、苗木の植栽位置を正確に把握できるシステムを構築しました。このシステムでは、比較的安価なRTK-GNSSキットC94-M8P(U-blox社製)を用いて苗木の植栽位置のGNSS測量(注1)を行いつつ、各苗木につけておいたQRコード付きのラベルをバーコードリーダーで読み取ります。このQRコードには遺伝系統情報がコード化してあり、これにより植栽した苗木の正確な地理座標と遺伝的系統情報を簡易に記録できるようにしました。実際に2つの試験地でその測位精度を調べたところ、誤差は水平方向で6.4cm、鉛直方向で11.3cmであり、高い精度で植栽位置を測位できました。
令和元年度・2年度に設定した4試験地でこの手法を試用したところ、樹高測定も同時に行いつつ、1時間当たり100~200本程度の地理情報と遺伝系統情報を調査・記録できました。これは1000本程度の試験地であれば3チーム(6名)で1.6~3.3時間程度で調査でき、この手法が実際の業務で使用可能であることを示しています。また、今回の手法で得られる調査データは直接デジタルデータとして記録されます。従来の調査方法に比べて、ラベルの読み取り、野帳への記入、パソコンでのデータ入力等、人の手を介してデータ入力を行う必要がなく、このようなデータ入力等の際に生じるヒューマンエラーの発生リスクを低減できることも本手法の特徴です。
今回開発した手法では調査に有用な個体位置の緯度経度の把握に加え、苗木の植栽位置の地表面の高さも得られます。このデータは、今後UAV等を活用して植栽個体の樹高を推定する際の基準点として利用することができます。また、精密な緯度経度情報として得られる植栽苗木の位置情報は試験地内の微小な地形や環境変化と苗木の樹高成長等との関係の解析への活用等が期待されます。
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写真1.GNSS測量用の移動局 |
図1.試験地の配置図作成の例 |
(注1)GNSS測量:GPSやみちびき等の人工衛星からの電波を利用して位置を決定する測量方法
参考文献:松永孝治・武津英太郎・入江博樹(2020)小型RTK-GNSSキットを用いた植栽個体の地理座標測位の精度の評価とその応用:林木育種における個体管理にむけて.日本森林学会誌102(4):254-262
(九州育種場)
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